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ものづくりで物事の意味を考える

ものづくりで物事の意味を考える

松橋 百葉 Momoha Matsuhashi
学部:環境情報学部3年
出身校:立川国際中等教育学校(東京都)

メディア本来の部分に焦点を当てて

私は中学の頃からメディアアートに興味があり、高校の時には独学でプログラムを書いていました。しかし、メディアアートを大学で研究テーマにしようとは考えていませんでした。それが変わっていった最初のきっかけは、SFCを受験したことだと思います。入学試験で小論文を書いたとき、知識だけではなく自分の意見を評価するというSFCの姿勢に驚き、自分の興味を自分なりに追い求めることに適性を感じたのを覚えています。二つ目のきっかけは、入学してすぐに入った「Art & Technology」というサークルで、先輩たちが作品づくりと研究を別のものとして捉えていないと感じたことです。「作ることを研究にしていいんだ」と気づきました。
その後、脇田玲研究会や藤井進也研究会にも所属して、私はメディアアートの何に惹かれるのかと考えていった結果、技術の高さや美しさではなく、媒体=伝える手段というメディア本来の部分に興味があることがわかりました。以降、メディア自体に焦点を当てて、その意味を考えるような作品を制作しています。

生まれたての宇宙を「音」で表現する

SFCでの研究成果を公開する「Open Research Forum 2019」では、高校で宇宙物理を学んでいた後輩と共作した「Clear Up of the Universe」という作品を出展しました。電磁波で観測しうる最も古い、宇宙が生まれた直後の温度分布図のデータを可視化・可聴化したものです。そのデータを半球にプロジェクションすることで、微細な温度分布を立体的に見ながら、音で聞くことができます。かすかな温度の揺らぎを伝えるメディアとして、音がいちばん繊細で適していると考えました。宇宙物理学は一般になじみの薄いものですが、このような形で作品化することで、私達の存在につながる宇宙の誕生に思いを馳せることができるのではないかと考え、制作しました。
私は、手を動かすだけでも頭を動かすだけでもダメで、作ることと考えることを同時に行うことが大切だと思っています。SFCにはその文化があるので、制作と議論を両輪にして、さまざまな分野の人とともに研究に取り組めるのだと思います。

ものづくりを続けるための方法づくり

学外活動では、音が好きな2人の先輩と結成した「Qux(キュー)」というものづくりユニットで、アナログシンセサイザーキットの開発・販売をしています。制作を行ううちに気づいたのは、金銭的に制作しやすく頒布もしやすいソフトウェアと違って、ハードウェアは制作を続けるために、よりお金や材料などのリソースが必要だということです。
そこで、自分たちの活動を知ってもらうためにも、開発したシンセサイザーを販売して、さらにクラウドファンディングを行ったり、ワークショップを開催したりするようになりました。資金をどのように調達するか、モチベーションをどのように維持するかなど、ものづくりを続けるための方法を考えながら活動を継続しています。

小さな「わかる」体験を追いかけたい

私は、ものづくりをすることで感性が豊かになると思っています。最近は、何気なく使っている身の回りのツール、例えばスマートフォンもそうですが、中身がどんどん複雑になって、どういう仕組みで、電気がどう流れているのか、よくわからないものが増えています。しかし、わからないまま流されて諦めてしまうと、視野が狭くなってしまうような気がするのです。
ものづくりを通して少しわかるようになる、その「わかる」が楽しい。そして「わかる」ことで、世界の見え方が少し広がる、みたいなところがあるのではないかと感じています。そういう小さな「わかる」体験を、私自身が追いかけたいし、作品を見てくれる人にも体験してもらいたいと思っています。

既存の枠を刷新するような舞台芸術へ

また、SFCの「ミュージカルサークルEM」では舞台照明を担当しています。舞台芸術を構成する視覚・聴覚情報は原始からあるものです。舞台づくりの実体験に現在の研究で行っている観点を照らし合わせることで、舞台芸術の特性と魅力を自分なりに解釈できるのではないかと考えています。
いつの日か、既存の枠を刷新するような舞台を作ってみたいと思っています。