自閉スペクトラム症から見える世界
杉山 翠 Midori Sugiyama
学部:総合政策学部3年
出身校:Sa-Hali Secondary School(カナダ)
諦めかけていた理系分野
カナダの地方都市で高校生活を送っていたため、夏休みに帰国して受験できる日本の大学は限られていました。カナダの高校数学の進度は日本の理系学部の受験に不十分。学部の選択肢も限られていました。でも文理融合のSFCなら、諦めていた理系の勉強もできるかもしれないと希望を持ちました。研究分野の選択が自由で幅も広く、以前から関心のあったメンタルヘルスや精神医学について学べることも知ってSFCを志望しました。
当事者としての関心
自閉スペクトラム症(以下ASD)は私にとって重要なテーマのひとつであり、いつか深く知りたいと思っていました。しかし、人と関わるのがあまり得意ではないため、現場での支援やグループでの研究は難しく、できれば単独で研究できる分野を見つけたい。1年生の夏休みに森将輝研究会の存在を知り、発達障害を持つ人の症状を知覚や認知レベルで定量的に研究できることがわかりました。 心理実験を通して数値データを収集し、共通する認知の特性や傾向を見つけていくプロセスに興味を持ちました。森先生に「実際に研究計画を立ててやってみないか」と励ましをいただき、心理実験を続けています。
人間が他者の顔を認識するメカニズム
研究テーマは、「高自閉スペクトラム症傾向者の顔認識メカニズムの解明と視覚情報処理」。私自身も他人の顔をおぼえることに苦手意識があります。ASDを持つ方が細部へのこだわりが強く、視覚情報を全体的に処理するのが苦手なことが関係しているのではないかという仮説が出発点です。
心理実験的手法を用いながら、顔の認識にどんな個人差があるのかを探っています。実験参加者はSNSで募集していますが、主に慶應義塾大学の学生が「研究室に来てみたい」「自分自身を測定してみたい」といった動機で協力してくれます。
自由なアプローチから学びを深める
1年生から研究会に所属できるSFCでなければ、ここまで自分の興味を深めることはできなかったでしょう。先生や大学院生から熱心な指導も得られるし、他の学生とも活発に議論やアドバイスを交換できます。学年に関わらずどんなことにもチャレンジできて、努力するほどサポートが得られる環境です。
発達障害について研究したかったのですが、入学時にはその方法が政策なのか、教育なのか、生物なのか、脳科学なのか、心理学なのかもわからずにいました。SFCでの学びを通して自分に一番合った方法を見つけ出し、自分が目指すゴールへ進めることに大きな価値があります。
また学部生でも応募できるSFCの研究助成制度は、外部の研究費に申請できない学部生にとってありがたいシステム。このようなサポートがなければ、実験の継続や学会への参加は難しかったと思います。
生きづらさを抱えるすべての人のために
現在は研究の論文の投稿準備と、新たに始めた実験の分析を進めています。また修士課程に進んだ後を見据えた研究計画も立てています。
発達障害を持つ人の認知特性については、まだ解明されていないことばかりです。私が貢献できるのは、実験心理学的な視点からの知見を増やすこと。自分自身が苦労したことから着想を得られることにもやりがいを感じます。私の研究結果が神経科学など他分野のASD研究を進めたり、臨床現場にもフィードバックにつながると嬉しいです。発達障害で生きづらさを感じている人々や発達障害を持つ人に関わっている人を少しでも助け、社会に少しでも貢献できるようになりたいと願っています。