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2023.09.27

古谷健太郎 特別招聘教授 「海洋国家日本の課題:羅針盤を探る」


総合政策学部 特別招聘教授 古谷 健太郎
政策研究大学院大学 連携教授
海上保安大学校 教授

担当科目:海洋安全保障と海洋法執行(春学期)
Maritime Security and Maritime Law Enforcement(秋学期)

今年度から「海洋安全保障と海上法執行」の講義を担当しています。私はSFCのお隣の茅ヶ崎市の出身で、私が通った小学校と中学校は海岸近くにあり、海はいつも身近な存在でした。職業も海が職場の海上保安庁に入り、映画「海猿」などでも有名になりましたが、海で遭難した人を救助する潜水士や特殊救難隊員として、また海上保安分野の脅威に対する政策の企画立案担当として携わってきました。SFCで講義をすることになったことも海に引き寄せられたと思っています。

この授業では、海洋に関連するさまざまな問題について取り上げます。日本は四方を海に囲まれる島国であり、その海域は寒流と暖流がぶつかり合い、水産資源が豊富です。また日本は島国であるため、輸出入のほぼ100%を海上輸送に依存しています。日本の経済発展は海と共にあったと言えるでしょう。

しかし、驚くほど多くの日本人が海に対する意識を持っていない現状があります。2022年の日本財団の調査によれば、海に親しみを感じると答えたのは「非常によく当てはまる」と「少し当てはまる」を足しても36%に過ぎません。さらに直近1年間での海への訪問数は45%が「1日も行かない」と答えています。(※1) この結果は、日本人の海に対する関心が低いことを示しています。

さらに海は違法漁業、薬物や銃器の密輸、密航などの犯罪行為をはじめ、外国からの脅威を伝える媒体でもあります。外国漁船による違法操業、銃器や薬物をコンテナに隠蔽する手法や瀬取りと呼ばれる洋上での移し替えによる密輸など、これらの問題は絶えません。さらに、中国の海警局に所属する船舶が日本の領域である尖閣諸島周辺海域に出没し領海に侵入を繰り返す事案も、日本の安全保障にとって大きな懸念材料となっています。

SFCの授業では、海洋の重要性を踏まえた上で海洋脅威についての知識を深め、そこに働く国際法を検討した上で、法に基づいてどのような対策が取れるかを分析します。そして、これらの対策が海上における法の支配を実現し、自由で開かれたインド太平洋の政策の中核をなすものであることを理解します。

この理解を深めるために、授業では質疑を通じた議論を積極的に行います。現代は不確実性の高い時代であり、多様な意見を受け入れながら、自分の意見を明確に伝え、答えのない問題に対する斬新で効果的な解決策を見つけ出す能力がますます重要になっています。また、議論を通じて相互理解を深め、信頼関係を築く能力も求められます。SFCの授業を通じて、これらの力をしっかりと養っていただきたいと考えています。

※1「2022年「海と日本人に関する意識調査」」日本財団