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2023.03.28

楽しむこと、諦めないこと|看護医療学部長 武田 祐子

WBCワールド・ベースボール・クラシックで、侍ジャパンが見事優勝した。普段は野球にさほど関心のない人々も、明るいニュースを喜び、日本中が祝杯ムード一色に包まれた。報道では試合だけではなく、個々の選手やチームに焦点をあてた記事も多くあり、「楽しむこと」「諦めないこと」がキーワードとして登場していた。日本チームからは野球を楽しむという姿勢が醸し出され、困難な状況においても、だから野球は面白いんだと言わんばかりのワクワク感が観客にも浸透していくように感じられた。だからこそ、ピンチと思われる場面でも諦めずに力が発揮され、素晴らしい結果に繋がり、誰しもが共感して素直に喜び合えたのだろう。 

「楽しむこと」「諦めないこと」は、週末に参加した遺伝看護セミナーの当事者の話でも中心のテーマとなっていた。お話しくださったのは、進行性難病で次第に運動機能が低下する中、須磨ユニバーサルビーチプロジェクトという活動との出会いが人生の大きな転機となった30代の方だった。子どもの頃は海水浴を楽しんでいたものの、車いすでは砂浜に車輪がはまり進むことは難しく、海に入ることは諦めていたという。母親がたまたま見つけたこの活動の情報から、さほど気乗りはしないままに参加したが、久しぶりに海に入れた体験に感動し、現在ではその活動の中心的役割を果たすようになった。

須磨ユニバーサルビーチプロジェクトとは、「須磨ビーチを障がいのある方やご家族、小さなお子さん、お年寄りなど、みんなが気軽に安心して海を楽しんでもらえるユニバーサルデザインのビーチにしようというプロジェクト」であり、車いすではビーチを楽しめないという既成概念を打ち破りたいという有志の活動から始まった。代表の方は、オーストラリアでビーチマットの敷かれた海岸を車いすの人も波打ち際で海を楽しんでいる光景に出会い、実際に感情が揺さぶられるような素晴らしい経験をしたことが、この活動への強い動機付けとなっていた。

ホームページでは、車イスでビーチを楽しむ人々、初めて海に入りはじける笑顔を見せる少女の写真など、心からの感動が伝わってくる。一つの「できた」は大きな自信となり、次へのチャレンジへとつながる。この活動の行動指針には、「めっちゃ、ええやん―全肯定―」と人生を楽しみ、「弱みを強みに変える―逆転の発想―」「できることは自分でやる。できないことはやろうとする。―権利と責任―」と、諦めないでチャレンジする姿勢が示されている。

この春、看護医療学部から107名の卒業生が新たな門出を迎えた。学生時代には経験しなかったような挑戦の機会、課題との直面、さまざまな出会いがあるだろう。「楽しむこと」「諦めないこと」を忘れずチャレンジしていって欲しい。

武田 祐子 看護医療学部長/教授 教員プロフィール