ある大学連携の国際会議の席で隣に座った人と挨拶した。その人はアジアの大学のVice-Chancellorだという。私は自分がVice Presidentという肩書きなので、てっきりカウンターパートに当たる人かと思ったら、実は相手は学長だった。
国際連携担当として世界各国の大学と交流するようになり、いまだによく理解できないのが大学の役職の肩書きである。以下は私の理解を書いているが、まちがっているかもしれない(その際はご指摘いただきたい)。
現在の慶應義塾大学の場合は、塾長がPresident、筆頭の常任理事がProvost、その他の常任理事はVice Presidentを名乗っている。Viceという言葉は悪徳とか不道徳を意味するらしいが、役職の前に付けるとラテン語で「〜の代理で」という意味になり、日本語で言う「副〜」になる。
早稲田大学の場合は、総長がPresident、3人いる副総長のうち1人がProvost、他の2人がSenior Executive Vice President、常任理事がExecutive Vice President、理事がVice Presidentとなっているようだ。
Provostは、キリスト教の主席司祭を意味するが、大学では学部長や学長(総長)を意味するらしい。ただし、多くの場合は教育部門のトップを意味する。まだ何も知らなかった助教授の頃、米国の大学を訪問し、「さあ、Provostがお待ちかねですよ」と言って部屋に通されたが、「Provostって何だ? Presidentより偉いのか?」と思った記憶がある。
英国のオックスフォード大学では総長はChancellorと呼ばれている。Chancellorは英国政治においては蔵相を意味するし、ドイツ政治においては首相のことだ。大学のChancellorは終身の名誉職のようで、日本でいう学長に当たるのは、Vice-Chancellorらしい。冒頭の間違いは、この英国式の肩書きを私が知らなかったために起こったのだった。
米国のスタンフォード大学は総勢45人の内閣(cabinet)が任命されており、Presidentの他、Provost、Vice Provost、Vice President、Deanなどの役職が見える。
大学のガバナンスやグローバル化が議論されているが、制度そのものを私は理解できていないと痛感する。外国の大学を訪問する前や、外国の大学のお客さんがいらっしゃる前ににわか仕込みで勉強するのだが、なかなか追いつかない。誰がカウンターパートなのかわからないと話しにくい。
大学のグローバル化は、形式を整えることも重要だが、その中身も理解しないといけないのだろう。欧州の古い大学などは、歴史的に教会との関係で複雑な制度と肩書きを作ってきたにちがいない。私たちがまねする必要はないが、理解は必要だ。日々勉強である。