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2022.10.26

総合政策学をひらく|総合政策学部長 加茂 具樹

昨年十二月の本日記で、総合政策学の現在を問う本をつくる、とお話ししました。本は、来年一月に刊行の予定です。みなで力を尽くしています。叢書名は『総合政策学をひらく』。十一月に開催されるORF(オープンリサーチフォーラム)では、セッションを設ける予定です。また、叢書刊行にあわせて、ウェブサイトも開設します。

この叢書のねらいを簡単に整理しておきたいと思います。

総合政策学は、一九九〇年代に新しい学問領域として誕生しました。一九九〇年四月に、慶應義塾が総合政策学部を湘南藤沢キャンパスに設置したことは、その先端を切り拓く取り組みでした。これ以降、日本国内の複数の大学で「総合政策」という名称を冠した学部が設置されたことは、日本において総合政策学という学問領域の重要性が認知されたことを示していると思います。

では、総合政策学とは何か。それが新しい学問領域として提唱された経緯が示すように、総合政策学はあるべき姿を不断に自問することが強く求められている学問といえます。

土屋大洋教授は「社会が変わり続ける限り、総合政策学の知見は常に古くなりつつあり、更新され続けなくてはならない。社会に間断なく問題が生まれ続ける限り、これだけ学んでおけば良いという固定化された知識では不十分である」と語っています。総合政策学という旗幟を鮮明に掲げてきた湘南藤沢キャンパスと総合政策学部は、これまでの三〇年の間に、繰り返し自らの歩みの総括を試みてきました。

その最も包括的な取り組みが、学部の創設から二〇年を機に刊行された『総合政策学の最先端』でした。同叢書の編集委員会委員であった小島朋之教授と岡部光明教授は、総合政策学を「大きな変革を経験しつつある人間社会の動向を的確に理解するための視点として方法ないし研究領域」と定義しています。

なお、同叢書を刊行するための基盤を形作った研究プロジェクトが文部科学省平成15年度21世紀COEプログラム「日本・アジアにおける総合政策学先導拠点」です。これを牽引した國領二郎教授は、総合政策学を「実践知の学問」と簡潔に説明しています。その軌跡と成果は、慶應義塾大学学術情報リポジトリ(KOARA)に所収されています

本叢書『総合政策学をひらく』(五巻本)は、二〇一九年晩秋にはじまる新型コロナウイルス感染症のパンデミック、そして二〇二二年二月のロシアによるウクライナ侵攻という、世界秩序が大きく流動する渦中に計画され、執筆をすすめてきました。いまある「流動する秩序」は、学部が構想され、設置された一九八〇年代後半から一九九〇年代の情況を彷彿とさせます。

いま国際秩序は大きな変動期にあります。国際社会が共有していると信じてきた価値や利益に対する認識が流動し、国際社会において共通して了解されている制度(ゲームのルール)は動揺しています。小さな秩序の変動を含まれば、秩序は常に流動しています。そうであるがゆえに、私たちが直面している問題の多くが、既存の解決方法に懐疑的であり、常に新しい思考を要求している、のです。

また、私たちが直面している諸問題は、いずれも既存の学問体系の向こう側の無限に広がる空間に展開しています。個々の先端的な学問領域に通暁しつつも、それを総合的に捉え直して、学際領域に踏み込もうとする総合政策学が魅力的であるのは、この変化に適応しようとする考え方を備えているからです。既存の学問の最先端を把握することを怠ってはいけません。それをふまえた先に、学際的な研究が開けます。

本叢書の執筆六十六名は、学部設置以来三〇余年の総合政策学の歩みを振り返り、現在の学問の姿を確認したうえで、湘南藤沢キャンパスで修学することを選択した学生達がこれからの三〇年先の世界を歩み抜くために学ぶべき学問とは何か、という問に答えようとしています。

本叢書は、そのはじまりです。

加茂 具樹 総合政策学部長/教授 教員プロフィール