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2022.08.23

SFCにある礼拝スペース|政策・メディア研究科委員長補佐 野中 葉

よく知られているように、SFCは、様々なバッググラウンドを持った学生、教員、職員が集う場だ。留学生の数で言っても、2022年6月現在、総合政策・環境情報・看護、それから大学院の政策・メディア、健康マネジメント合わせて400人以上 、実に多様な国籍、言語、信仰、文化、慣習を持った人たちが集まっている。誰もが過ごしやすいキャンパスを目指して、ハード面も少しずつ整備が進んでいる。そうした取り組みの中から今回は、すでに10年ほど前に整備され、日常的に使われている、けれども、どうやら学内でもあまり知られていない、イスラーム教徒たちの礼拝スペースを紹介しよう。

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イスラーム教徒は、明け方、昼、午後、日没、夜と一日5回の礼拝をする。明け方や夜の礼拝はもちろん自宅でできるが、昼や午後、授業の取り方によっては日没の礼拝の時間も、キャンパスで過ごしているイスラーム教徒が多い。このイスラーム教徒たちが礼拝を行えるスペースが、ι館の研究室棟(5階建ての棟)の2階にある。講義棟(2階建ての棟)とつながる渡り廊下に出る手間の踊り場、アコーディオンカーテンで仕切られたいたってシンプルなつくりの一角がその礼拝スペースだ。男性と女性の礼拝場はパーティションで区切られていて、それぞれに入口がある。床の一部には簡易のマットが敷かれているが、そのほかに礼拝用の小型の絨毯が畳まれて置いてあり、礼拝する時には、その絨毯を床に敷いて、座ったり、跪いたりすることもできるようになっている。

もちろん、決められた時刻通りに礼拝を行えれば一番いいのだが、日常生活の中では、きっちり時間通りにできないことも多い。だから実際には、次の礼拝の時間が来るまでの空いた時間に行ったり、2回分の礼拝をまとめて行ったりすることも許されている。というわけで、ι2階の礼拝スペースでは、授業の空き時間にイスラーム教徒の学生たちがそれぞれやってきて、各々礼拝を行う姿が見られる。1回の礼拝は、5分から10分もあれば終わるので、学生たちは、各自が授業の合間に礼拝を済ませ、またそれぞれに教室に戻っていく。ただし金曜の昼の礼拝は、集団で行うことが強く推奨されるので、この時には、かなりまとまった人数のイスラーム教徒の教員や学生たちが集い、一斉に礼拝を行う。全く違う分野の研究室の学生でも、学年が離れた学生同士でも、日常的にこの礼拝スペースですれ違い、金曜礼拝を一緒にすることで、顔見知りになっていくことが多いようだ。

礼拝前には、必ず手足と顔を洗うお清めをする。SFCでは礼拝スペースに近いι館2階の男子トイレ、それからε館2階の女子トイレの洗面がこのお清め用に改修されている。一般に手洗いをする洗面台は腰高だが、この2か所のトイレは、洗面が地面に設置されていて、足を洗いやすいようになっている。もちろん、一般の学生や教員も利用するトイレだから、そうとは知らずに入ると他のトイレとの違いに少し驚くかもしれない。

イスラ―ムでは、男女の礼拝スペースは分けられることになっていて、特に女性が礼拝している姿を男性は見ることができない。ι2階のスペースも、男女のスペースはパーティションで区切られていて、もちろん声は互いに聞こえるけれど、お互いが礼拝しているところは見えないようになっている。ただし、同じ授業を履修している男女の学生同士、授業後に声をかけあって一緒に礼拝することがあり、その場合には、男子学生の後ろで女子学生が一緒に礼拝をすることもあると研究室の学生から教えてもらった。このι館2階の礼拝スペースを利用して、普段はつながらないような人たちがつながり、色々な交流が生まれているようだ。

もちろんイスラーム教徒であるということは、SFCにあまたある多様性の一つでしかない。彼らだけが特別に配慮されるべき存在だということではない。予算もスペースも限られているから、すべての要望には応えることは難しい。それでもできる限り、一人一人が大切にしているものを守りながら、誰にとっても過ごしやすいキャンパスを目指したい。お互いの違いを認め、違いを尊重しあう中で、その多様性から各自が学び、差異を共鳴させて、一緒に新しいものを作り上げていくアイディアやパワーが生まれると思う。色々な制約は、フォローしカバーし知恵を出し合って、解決策を見つけられるはずだ。ひっそりと、でも10年も使われ続け、イスラーム教徒たちの信仰実践と集いの場として機能してきた礼拝スペースを一つの先行事例として、皆が心地よく集えるキャンパスを目指し、今後も色々な取り組みを進めていきたい。

野中 葉 大学院政策・メディア研究科委員長補佐/総合政策学部准教授 教員プロフィール