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2021.06.25

白井 良邦 特別招聘教授 「SFC:未来を構想すること」

白井良邦ポートレイト(体たくさん版).png環境情報学部 特別招聘教授 白井 良邦
編集者
株式会社アプリコ・インターナショナル代表取締役
Sustainable Japan Magazine by the Japan times編集長

担当科目:建築メディア論(春学期)

私は、社会に出てから多くのSFC出身者と出会い、時に仕事をすることもありますが(起業家・銀行員・クリエイターと職種は様々です)、皆一様につまらない慣習やルールにとらわれず、自分から積極的に物事に取り組む姿勢の人が多い印象を持っていました。それはどうしてだろう、と常々考えていましたが、SFCのカリキュラムを知り自分でも実際に講義を受け持ってみて、その秘密がわかった気がします。SFCの素晴らしいところは、様々な学問を横断して学べること、そして、それを支える専門知識と柔軟な発想をもった教授陣のすばらしさにあると思います。学生の授業や課題に取り組む積極性や能動的な姿勢も校風なのでしょうか。印象に残ります。

私は大学卒業後出版社に入社し、23年間雑誌編集者として仕事をしてきました。その後、大手造船会社グループ傘下の事業会社へ移り、経営者として建築を軸にした町興しや富裕層向けの旅行事業などに携わってきました。その社会人生活の中で私にとって一番の転機となった出来事が1998年に雑誌「CasaBRUTUS」の創刊準備に関わったことです。建築・デザインを専門的に学んだ経験がなかった自分が、建築・デザインを切り口にした新しいライフスタイル誌をつくらなければならない ―― 最初の数年間は必死に本を読み、人に会い、建築に関する知識を学び情報を吸収していきました。それから19年間「CasaBRUTUS」を編集することになるのですが、その雑誌づくりの現場で学んだきたこと・感じたこと・考えたことを、講義に落とし込んだのものが、今回SFCで教えている「建築・メディア論」の授業です。建築といっても建築専門の講義でもなく、単純なメディア論でもないところ、様々な分野を横断しながら、未来を構想する講義が、ある意味SFCらしいかもしれません。シラバスにも書きましたが、「建築・メディア論」の講義は以下の考えで構成されています。

本講座は、建築文化の理解を通じ、物事を多面的かつ柔軟にとらえる視点・視座・視野を身に着け、社会で活躍する人材を育成することを目指している。本講座は、次の考えのもと構成されている。

・「建築」(Architecture)とは、単なる建物(Building)を超えた次元で成立している。
・その「建築」は、芸術性はもちろんのこと、経済・政治・法律など様々な制約のうえに成り立っており、重要な文化の構成要素であると同時に、社会的な存在である。
・ゆえに「建築」は時代的・社会的な背景や先人の思想等を読み取ることができるメディア(媒体)である。各建築の存在意義を検証し、そこから未来の社会の姿・あり方を構想する。
以上の視点から、毎回テーマに添った講義を行い、建築を通じて社会・文化を学び、問題意識を養い、既存の価値基準に囚われない自由な感覚・発想力を養う。

雑誌というメディアの、編集者として立場から「建築」を見てきた私にとって、建築や都市は、歴史・文化・思想・人種・社会問題などが詰まった良い意味でも悪い意味でも教科書のようなもので、まさにメディアのような存在に感じました。「建築」の背景にある知られざる歴史や思想に光を当て、そこから何を学び、自分ならどう行動するか? を学生に考えてもらうというのがこの授業の狙いです。講義はCasaBRUTUSの特集のようなイメージで、「丹下健三で学ぶ日本現代史:1945終戦-2020東京五輪」や「UFO住宅~アップル新本社屋まで:未来の建築のカタチとは(1968年に何が起こったか?)」「岡本太郎と建築~太陽の塔が訴えるものは何か?(近代思想の終焉)」「建築家はなぜ日本最大の輸出品になったのか」「建築で町おこしは可能か:せとうちアーキツーリズム」など、毎回テーマが変わります。私のスタンスとしては、教えるではなく「伝える」。雑誌づくりの時から心掛けてきた姿勢です。

 良く学び遊ぶことができる学生時代に、残念ながらコロナ禍でなかなか身動きが取れない今の学生たちですが、せめてこの講義から少しでも何かを感じてもらい、SFCから巣立った将来、社会課題解決に果敢に挑み、新しい価値あるものを生み出していってもらえればと願っています。

(プロフィール)編集者。株式会社アプリコ・インターナショナル代表取締役。Sustainable Japan Magazine by the Japan times編集長。株式会社CUUSOO SYSTEMクリエイティブ・デイレクター。
大学卒業後、株式会社マガジンハウス入社。雑誌「POPEYE」「BRUTUS」を経て「CasaBRUTUS」を編集。「CasaBRUTUS」には1998年の創刊準備から携わる。担当した特集に「丹下健三特集」「安藤忠雄特集」、連載「櫻井翔のケンチクを学ぶ旅」、書籍「杉本博司の空間感」など。2017年より「せとうちホールディングス」執行役員兼「せとうちクリエイティブ&トラベル」代表取締役。客船「ガンツウ」などの富裕層向け観光事業に携わる。