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2021.03.16

3月の信濃町|健康マネジメント研究科委員長 武林 亨

出張も会議もすっかりオンライン化されて一年。新国立競技場を右手に見ながらキャンパスへ向かうことが日常となっている。気がつけば、切り詰められた紫陽花の枝が一斉に芽吹き、鮮やかな明るい緑色をした小さな葉が春の風に吹かれている。

大学病院がある信濃町キャンパスでは、ワクチン接種が始まった。厚労省のサイトによれば、3月10日までに148,950回の接種が医療者を対象に実施されている。これほどの短期間でワクチン接種に漕ぎ着けること自体、パンデミックを乗り越えようとする科学技術の力を感じさせるできごとであるが、大事なのはこれからだ。

日本国内はもちろん、世界中に、広く公平な接種の機会が提供されなくては、みんなが待ち望む自由な生活は戻ってこない。生産の問題、ロジスティクスの問題、注射器の問題、、、。次々と隘路が出現してはそれを乗り越える工夫がなされていく。今度こそ、ITが効率的な接種のマネジメントに力を発揮してくれるだろうか(本稿を書いている前日までの全国の接種回数を記載できたのは、ワクチン接種円滑化システムV-SYSによる)。

もう一つの手強い相手が、SNSで拡散する誤情報(misinformation)だ。Facebook、Instagram、そしてTwitterがそれぞれ、情報の信頼性を評価し、誤情報にはラベル付けによる注意喚起(Twitterは、5回以上でアカウント永久凍結となる5 strike制)を開始、YouTubeはワクチン接種に関する前向きな情報のビデオが表示されやすくなるアルゴリズムを採用したというが、それだけでは十分ではないという専門家の分析も示されている(BMJ 2021;372: n26)。SNSの情報は、「フィルターバブル」と「エコーチェンバー」の中で、自分の見たいものだけに行き着き、自分と似た意見を持つ集団の中で共有され拡散されていくからだ。

神宮外苑に降り注ぐ春の陽を受けながら、まずは自分の検索エンジンを疑うところから始めようと思うこの頃である。

武林 亨 健康マネジメント研究科委員長/教授 プロフィール