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2021.01.19

新成人の諸君へ|常任理事/総合政策学部教授 國領 二郎

世の中大混乱の中での成人の日だった。晴れ着で高校時代の仲間と会いながらこの日を祝う楽しみを持てなかった諸君も多かったのだろうと思う。成人式だけでなく、学生諸君には(しかたないこととはいえ)授業から課外活動まで会食一切自粛などと言わざるを得ず、寂しい思いをさせてしまっていることを申し訳なく思っている。せめて、この文章を通じて諸君の前途を祝福したい。

思えば諸君は生まれて間もなく、9.11のテロ事件があり、10年たったところで、東日本大震災に遭遇し、今年コロナ禍の中で成人しようとしている。節目を大災厄の中に迎える巡り合わせにお疲れ様としか言いようがない。その度に大人たちがてんやわんやで対応しようとしているのを見て育ってきたのだろうと思う。良いと思う面も悪いと思う面もしっかり見ておいて欲しい。

そんな理不尽な目にあっている諸君にお願いするのは申し訳ないのだけれど、これからは大人の一員として問題解決にあたって、次世代に少しでも良い世の中を残す努力をしてほしい。もちろん僕ら年配者もさぼらないでやるつもりなので、一緒にやりましょう。

自分たちだけがひどい目にあっていると思っていただきたくないので付け足しておくと、世の中、10年に一回くらいは世界を揺るがすような大変なことが起こるように出来ているのだと思う。諸君が生まれる10年前の1990年には前年に天安門事件があり正月早々に湾岸危機が勃発した。20年前の1980年には第二次オイルショックの大波が来ていた。1970年ころはベトナム戦争が深刻になって世界中が騒乱模様だった。

大きな事件は来るたびに社会を恒久的な形で変化させていく。つまり波が去っても元へは戻らない。大きな衝撃の中で古い秩序が崩れて、立ち直りをはかるなかで、意味のあるものだけが残り、さらに新しいものが生まれていくからだと思う。それは若者にとっては斬新な考え方で世の中を作っていくチャンスなのだと思う。ぜひ生かしてほしい。

それにつけても、混乱の異常心理の中で、おかしなことが起こることには気をつけたいものだ。深刻な話に触れることはやめて、笑ってしまう話にしておくが、あれだけ供給が足りていることになることが伝えられながら、事件が発生する都度にトイレットペーパーのパニック買いが起こるのは人間の心理危険な面を表している。せめて大学で教育を受けている我々は、データと論理に基づいて、世の中に冷静さを取り戻させる存在でありたい。

國領 二郎 慶應義塾常任理事 / 総合政策学部教授 プロフィール