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2012.08.07

外国人ママ支援--多文化共生社会を目指して

木村素子さん
和なびジャパン代表
2001年総合政策学部卒業 木村素子さん

◆外国人ママへの情報提供・心理的サポートを通じた復興支援
東日本大震災後の2011年5月、首都圏で暮らす外国人ママ向けの防災ワークショップを開催し、その参加費を被災した母親達に送るという活動を始めました。震災直後、さまざまな情報が錯綜する中、子供を守る責任の重さを改めて感じた親は少なくなかったと思います。私自身、10ヶ月の娘を抱え身動きがとれず、無力を痛感しました。そんな折、言語や文化の壁に直面してより大きな不安を抱えていた外国人ママに出会いました。そして、国内の震災情報の多くが日本語のみで提供される中、異国で家族を必死に守ろうとする彼女達への情報提供・心理的サポートを通じた復興支援ならできるのではないかと気付き、志を同じくするメンバーと共に「和なびジャパン」を結成しました。
「重いテーマを楽しい学びに変えてくれてありがとう」「不安を共有できてほっとした」「これからは自信を持って生活していけそう」など、ワークショップ参加者からの声を聞くと、学びと支え合いの場を提供できたことを嬉しく思います。一方、活動を通じて日本が外国人にとっていかにアクセスしにくい社会であるかということに改めて気付かされています。

◆丁寧に寄り添うこと=分野横断的・問題解決型アプローチ
以来、外国人ママのニーズや不安に耳を傾けながら、和なびジャパンはサービスを少しずつ拡げてきました。例えば、外国人ママにとって日本で食材を購入することは、アレルギーや宗教的・文化的背景からの食事制限に加え、放射能の心配があるなど、日本人が気付いている以上にハードルの高い行為です。そこで私たちは、食の安全をめぐる日本の現在の状況を学び、食材の産地や食品表示を読み取るための日本語を身につけるワークショップを開発しました。また、在住外国人から寄せられた食に対する不安の大きさを改めて痛感し、北海道の農業法人の協力を得て、在住外国人も利用しやすい、高品質で安心安全な「野菜セット」を開発し、宅配サービスを始めました。私たちはこの農業法人に対し、外国人向けの商品開発・マーケティング、英語での顧客コミュニケーションの面からサポートしています。これは、売上の一部を東日本大震災で被災された母親への寄付に充てるという、国内で唯一の日英両言語による寄付付き野菜宅配サービスです。このように、外国人ママの不安やニーズに丁寧に応えて行く過程は、分野横断的なリサーチをもとにサービスを開発して行く作業です。SFCが提唱する問題発見・解決アプローチがベースにあると感じています。

◆母としてより明確になったSFCスピリッツ
AO入試で入学した時から一貫して「多文化共生」に関心をもってきました。原点は、ニュージーランドの現地校で唯一の外国人として暮らした子供時代。「共生」は一方が他方に同化を促したり排除したりすることではなく、互いの違いを理解し、認め合うことからはじまるということを心に刻みました。また、異なるものと出会うことで自分の価値観が相対化され、固定概念から解放されていくプロセスの面白さを知りました。SFCでは、多民族が共存するアジア諸国の政策に関心をもち、故小島朋之研究会で学びました。また多民族社会に身を置いてみるためにインドネシアでの短期語学留学や、スタンフォード大学の東南アジアスタディツアーにも参加しました。卒業後はODA(政府開発援助)・難民支援・日本語教育とアプローチを変えてキャリアを積んできましたが、多文化共生社会の実現に対する思いは当時から変わりません。
和なびジャパンは現在さまざまな国籍、そして異なった専門知識を持つ14名のメンバーで構成されています。実はそのうちの6名がSFC出身者です。子育て中の母親が中心で、それぞれが専門性と細切れの時間を持ち寄って活動をしていて、子育て世代の女性の新たな働き方を模索しています。様々な制約を抱えながらも、社会に貢献したいと願うのは、母となり、震災を経て、次世代にどんな社会を残したいのかという理想を意識し、現実とのギャップを直視したからかもしれません。このギャップを埋めて行くために、改めて問題発見・解決型アプローチの大切さに気付かされています。
外国人を含むすべての人が安心して暮らせる社会を築いていく過程は、日本人自身が日本の生活文化の魅力を再発見し、社会に活気を生み出して行く過程でもあると私たちは信じています。この活動をよりよいものにしていくために、今後も様々な専門性をもった方と繋がっていきたいと考えています。SFCスピリッツで共に歩んでくださる方のご参加をお待ちしています。

木村素子さん                                         
赤ちゃん連れのママでも楽しく参加できる工夫をしています

木村素子
外国人と日本人が互いの文化を学び合い、交流する場も提供しています

木村素子(きむら・もとこ/旧姓:金丸)
北海道出身。SFC卒業後、国際協力銀行(JBIC)に就職。スリランカ・アフガニスタン等の紛争国を対象に、円借款プロジェクトを通じた復興支援・平和構築の可能性を探る調査などを担当。日本のスリランカ難民を通じて閉鎖的な日本社会の現状を知り、国内の「多文化共生」をライフワークにしたいと決意。法律を学びながらNPOで難民への法的支援に携わる中で、日本語教育の機会を通じた情報支援・心理的ケアの重要性に気付かされ、専攻を変えて日本語教師の資格を取得。留学生に日本語を教える傍ら、難民のシェルターでの日本語教育に携わる。育休中に発生した東日本大震災を機に「和なびジャパン」結成。代表として、外国人家族向けのワークショップ・ナビゲーション、日本人と外国人家族の学び合いイベント、日本のサービス業向けコンサルティングなどの事業に取り組んでいる。

和なびジャパン
ホームページ: http://www.wanavi.org/
Facebook: http://www.facebook.com/wanavi.japan1/

(掲載日:2012/08/07)