高池 葉子さん
株式会社 伊東豊雄建築設計事務所 勤務
2006年環境情報学部卒業、大学院理工学研究科開放環境科学専攻修士課程修了
◆事務所での活動
私が勤務する伊東豊雄建築設計事務所では、国内外併せて約20件のプロジェクトが動いています。超高層ビルのような大規模なものから、規模の小さな美術館や住宅まで、公共建築・集合住宅・商業施設など幅広いタイプの建築を設計しています。私は現在、葬祭場の設計と、公園の休憩施設の現場監理を行っています。また、われわれの事務所がボランティアで関わっている東日本大震災復興プロジェクトにも取り組んでいます。
その中で特に特徴的な「みんなの家をつくろう」というプロジェクトをご紹介します。
◆みんなの家をつくろう
大震災直後から所内で「今、われわれに何ができるか」について議論を重ねた結果、次のようなコンセプトの「みんなの家」を被災地に提案しました。
津波で家を失った人々が集まり、心の安らぎを得ることのできる場所を、われわれが一方的に提供するという形ではなく、「つくり手」と「住まい手」が話し合いながらつくるというものです。また、その場に集まった人たちが将来の復興を語り合う拠点になります。
「みんなの家」の資金は世界の企業や団体から募り、資材もメーカー等から無償で提供してもらっています。昨年の10月に仙台市宮城野区に完成した「みんなの家」では、熊本県が木材の提供や資金を援助してくれました。九州から来た大工さんや仙台の大工さん、ボランティアの学生さんたちが一緒に「みんなの家」をつくってくれました。また仮設住宅に住むお父さんが薪置き場をつくってくれ、お母さんたちが毎日差し入れをしてくれました。薪ストーブをめぐっては大議論になりましたが、仮設住宅に暮らす人々の要望を聞き、住民が協力し合い、人々の「心の交換」によってこの建物は出来上がりました。
「みんなの家」の完成後にはさらに多くの出会いと交流が生まれています。多くの熊本の方が訪れ、たくさんの贈り物をしています。熊本焼酎の酒蔵の方は、「みんなの家」の前で撮った集合写真をラベルにした焼酎を製作して贈ったり、熊本の中学校の校長先生が、訪問後、地元で生徒たちと募金活動をして、集めたお金を自治会に寄付したりしました。今年の6月に完成した釜石市商店街の「みんなの家・かだって」では、若手の住民たちが復興まちづくりを考える組織を立ち上げ、毎晩のように会合をしています。
◆SFCでの経験
こうした活動の原点はSFCでの教育にあると思います。SFCでは先輩や後輩、さらに先生方も一緒に夜遅くまで議論しました。少人数のゼミ形式の授業が多いことや、辺鄙な場所にあるため先生方も夜帰ることができないと、大学に泊まって学生と時間を共に過ごして下さるからです。また、社会的に活動をされている教授が多く、常に、社会における建築のあり方を考えさせられ、学外での活動へも積極的に参加するよう勧められました。夏休みにフランスのお城へ行こうと先生に誘われて観光気分で行ったところ、2週間のハードな建築ワークショップだったこともあります。それが、私の建築家への第一歩でした。
逆境にもめげず、ひたむきに頑張る被災地の人たちのまなざしは、SFCにいた時に出会った多くのまなざしと共通の輝きがあると私は感じています。
(掲載日:2012/11/20)