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2004.09.30

最後は、勇気だ。|熊坂賢次(環境情報学部長)

9月18日。三田での卒業式。小規模なので、けっこういい雰囲気。3月の卒業式は荘厳な伝統そのもので、塾歌がゆったりと全体に響き渡る時間は格別だが、学位記の授与がとても機械的で、もの悲しい幕切れなのだ。それに比べると、9月の方は、みんなの顔が見え、学位記をひとりひとりに手渡しでき、いい気分で終わることができる。ただ学位記に書かれた学生の名前が難しくて読めないことが多く、困るという以上に、恥ずかしいし、みっともない。マイクに向かって名前を読む瞬間は緊張する。そして間違えた。

安西塾長の贈る言葉のテーマは、理念と信念と勇気。説得力があり、学生たちも神妙になって、聞いていた。僕も、聞きながら、確かに勇気がないと物事は進まないな、と自分の貧しい勇気に呆れた。どんなにすばらしい絵を描いても、それをいかに実現させるか、そのための努力を惜しんではだめだし、一歩踏み出す勇気がないと、きれいな絵ほど、虚しい思いになるな、と納得した。

式典が終わり、緊張が解けたところで、卒業生に挨拶し、つい失礼な発言をしてしまった。「今日はみなさんの卒業式ですが、今日はもっと大切な日です。70年の歴史のなかで、ストでプロ野球が初めて行われないという歴史的な一日で、それに比べると、卒業式なんて、どっちでもいいかな…」なんてことが、つい口からでてしまった。きっと保護者のみなさんは、大切な卒業式を台無しにするいい加減なやつだ、と心の中で怒ったことだろう。

それくらい(と言って、自己弁明だが)、古田は、えらい、すごい、かっこよかった。彼こそ理念と信念と勇気の人だ。巨人たちに向かって、ストという時代錯誤のイベントを、このタイミングで打つ勇気には、誰かじゃないけど、感動した。ただ、古田が立命館大学の出身なのが、残念だ。SFCから彼のような人材を出したかった。単にスポーツだけでなく、マネジメントや組織といった視野からでも喧嘩できる才能をSFCから出したい。さらに新規参入するベンチャー企業がライブドアと楽天というのも、気に入らなかった。そして楽天を実質的に支えたのはSFCの卒業生なんだぞと訴えても、ちょっと複雑な気分だった。SFC発ベンチャーにも、そろそろ舞台に登場してほしいものだ。がんばれ。

そんな卒業式を、9月18日に迎えた。

(掲載日:2004/09/30)

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