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2007.12.13

学生時代、パソコンで儲けました|冨田勝(環境情報学部長)

私はコンピュータが大嫌いでした。大学2年生の必修科目「情報処理実習」で大型コンピュータをひと通り勉強させられましたがまったく興味が持てませんでした。しかし3年生になって、世界初のパソコン「Apple 2」が発売されたとき(1979年)、「自宅でテレビゲームができる」といううたい文句に魅せられていち早く買い込んだのが運のつきでした。Apple 2でコンピュータの面白さを知り、夢中になって独学でプログラミングを勉強し、ついには機械語でテレビゲームを自作するようになり、完成するたびに秋葉原のマイコンショップへ持ち込んでは値段交渉して毎回数十万円で買い取ってもらいました。

20歳のころApple 2と

4年生になると、パソコンではじめて漢字を表示できる「Apple漢字システム」を完成。いかにもぎこちない手作りのフォントながら、当時は“世界初の画期的なシステム”として「週刊現代」のグラビア記事にもなり(笑)、某社から定価29800円で発売されました。しかしその翌年から国内の大手メーカーが漢字の使えるパソコンを続々と発売、「Apple漢字システム」は間もなくあっけなくお蔵入りしたのでした。

Apple漢字システム(1980)

その後私はコンピュータ科学の道を進む決心をしてアメリカに留学、博士号まで取得しましたが、36歳のときに生命科学の面白さに魅せられバイオ分野に転身。学生たちと一緒に夢中になって先端バイオの勉強・研究をし、博士号も取り直して現在に至ります。

私の人生にとってあの「Apple漢字システム」は何だったのだろうか。今の仕事にはまったく無関係の回り道、もっと早く生命科学を始めていれば近道できたかなとも思います。でもあの時ひとつのことに熱中し、自分の知力と体力を結集させて達成したことは、世の中からはすぐに忘れ去られたとしても、私の人生を歩く上で確固たる自信の源となっていることは間違いありません。

(掲載日:2007/12/13)

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