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2009.01.27

私の予言:15年後のSFC|山下香枝子(看護医療学部長)

すでに周知のこととは思いますが、「未来をひらく福澤諭吉展」が東京国立博物館 表慶館(上野公園)で今年の1月10日から3月 8日に亘って開催中です。福澤諭吉の足跡の偉大さ・すばらしさは、「日本の偉大な思想家・啓蒙家・教育者など」として、広く知られていますが、この展覧会を通して直に福澤先生のお考え・日常生活・息吹に触れるようで感動せずにはいられませんでした。世紀を超えて今なお新しい視点、思索の深さ、周囲の人たちへの人間味豊かな思いやり等など、「勇気と気品」に満ちた福澤諭吉の人間像に接し、会期中に一度といわずニ度・三度訪れたいと思いました。

さて、本題の「15年後のSFCはどのように変化しているか」を考えてみましょう。150年前を考えるのは難しく、想像をたくましくして空想を楽しみましたが、15年後を考えてみるのは現実感があり、ある意味でexcitingな時間です(私も15年後は既にSFCを徳田学部長や阿川学部長よりもずっと前に卒業しています)。

まずは、風格のでたキャンパス風景です。樹木は丈が伸び、幹回りも2〜3まわり太くなり、存在感を一段と増しています。コンクリート外壁の建物は、15年後も新しさを失わず、さまざまな人種が増えたキャンパスに調和し、学生の動きを(寛容のまなざしで)見守り続けてくれているでしょう。

「未来創造塾」は、ヨ-ロッパの伝統ある大学学生寮に似た品格を備えています。阿川学部長の薫陶を受けた学生たちは、既に紳士・淑女に成長し、この紳士・淑女達は、ある者は大学に戻り、ある者は起業して社会のニーズを掘り起こし、ある者は企業や会社組織で中核を担う存在となり、彼らは後輩(在学生)を指導して、「未来創造塾」の伝統となった晩餐会を盛大に年に1回は開催するように準備し、かつての学部長や理事を招待し、キャンパスの開設当時や未来先導塾の構想から実施にまつわる様々なエピソードを話してもらい等々、・・・・・、これ以上は、徳田学部長や阿川学部長の守備範囲ですので、この辺に止めておきましょう。

次に、SFCで学習・研究する学生の多様さに、退職後12年ぶりに「老いの実感」を語る特別講師として招かれた私は、嬉しい驚きを味わっていることでしょう。久方ぶりにSFCを訪ねた私は、懐かしさのあまり、1時間も前に到着し、キャンパス内の樹木に挨拶してまわり、ベンチに腰をおろし、様々な国からの留学生(と想像される)若者たちが早口で語り合い、談笑している様子に耳を澄ませていると、日本語の他に、英語、ドイツ語、仏語、韓国語、中国語、マレー語、フィリピン語、ベトナム語などの言語が飛び交っていることに軽い興奮を覚えています。また未来創造塾の『結い広場』に行くと思われる車イスの人たちや、ボランティアの老若男女の方々が、ある人達はゆっくりと歩きを楽しみ、ある人達は明るい顔で会釈して小走りに通りすぎて行きます。さらに未来創造塾の1階に開設されている『子供のひろば』に向かう保育園児の透き通ったかん高い声も聞こえてきます。

私はこれらの情景を肌で感じながら、そういえば、15年前の2009年は、慶應の‘これからの150年’に向けた第一歩の記念すべき年であったこと、慶應の国際交流促進や国の政策‘留学生30万人計画’の具体化を真剣に考えたこと、多様性の生み出す創造や寛容さを求めて女性研究者支援や保育支援、男女共同参画の普及に奔走したこと等々が昨日のことのように鮮明によみがえり、感慨一入(ひとしお)です。

と、突然このとき、5〜6人の学生のグループが「やったね!やったね!・・」と歓声をあげながら「SFCはついに世界の大学の中で academic rankingが20位!20位!」と、肩をたたき合って喜びながら、駆けて行く光景に出会いました。私も、「ほんと!それはなんてすてきなことでしょう!」「良かったわね!やったわね!・・」と、歓喜のグループを見送りながら、一人で小躍りし、また15年前を遠い昔の事として振り返り、様々な思いに耽ってしまいます。

そうそう、15年前の2009年初めには「未来をひらく福澤諭吉展」が開催され、福澤先生が「異端の実践者」として紹介されていたこと、 2007&2008年のORFのテーマが「eXtreme」であったこと、加藤寛SFC初代総合政策学部長が「福澤先生は、最近はずっとSFCに移住・・」と、学生達を鼓舞していらしたこと等々・・、SFCの成長や成果は、<福澤先生の時代を超えた思想や生き方を日々の教育・研究で実践しようとしてきた教育・研究が実を結んだのだわ・・、そしてSFCの多様性と寛容さがそれを根底で支えた成果だわ、その産物だわ・・・>と、私はかってに解釈し、かってに一人で納得していたら、始業のチャイムが聞こえてきました。

「あら大変! 今日は久しぶりに、学生に向けて<老いの体験>を話すためにSFCに来たのだったわ」と、SFCを訪ねた目的を思い出し、でも、「老いたら、風邪引くな!転ぶな!・・・」なので、「何事もゆっくりいきましょう!」と、注意の3項目を思い出し、看護医療学部の校舎に向かうことにしました。

刑事コロンボばりに、<そうそう、最後にもう一つ思い出しました。2008〜2009年にかけては、100年に1度の経済危機と言われた年でもあったこと、また「就職氷河期」の再来への不安の大きな年でもあったことです。私の70年余の経験から言えることは、このような苦しい時こそ、「未来への投資」としての教育や研究は怠ってはならず、とりわけ未来を先導する人材育成は、SFCのミッションである。・・・光陰矢のごとし。若者の時間を無駄にしてはいけないと、転げないようにバランスを取りながら教室に向かって走っていることでしょう。

(掲載日:2009/01/27)