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2008.07.03

医師としてあるまじき行為|大西祥平(健康マネジメント研究科委員長)

健康マネジメント研究科において、適切な睡眠と生活パフォーマンスとの関係をドクター1年の方と研究しています。適切な睡眠とは入眠潜時(床についてから眠りに入るまでの時間)、中途覚醒の有無、そして睡眠時間といった要素が評価の対象となります。最近は7時間半という睡眠時間であればもっとも平均寿命が長いということが分かってきました。これより短くても、また長くても良くないとのことです。睡眠不足は様々な社会問題を引き起こしてきました。スリーマイルズ島の原子力発電所の事故、NASAのチャレンジャーの爆発事故など、担当者の睡眠不足によるミスが大事故につながっていたことが証明されています。医師も同様で、救急医療の現場に携わっていた若手医師(研修医)の判断ミスにより死に至らしめた事故がありました。これはアメリカのケースです。そしてその後、医師の勤務形態における改善がなされることとなりました。

私は昭和52年に医学部を卒業し、その後慶應大学病院の研修として病棟および外来の勤務が始まりました。私たちの頃の勤務は今から言えば全くの異常な世界でありました。朝は患者さんが朝食をされる前に、必要な方の採血および診察を始めます。朝6時半頃からです。そしてカルテの整理を行い、それから講師、助教授および教授の外来につきます。カルテに先輩の先生方の口頭筆記、処方箋書き、患者への病気や検査の説明を行っていました。めまぐるしい作業でした。呼吸器循環器内科の外来についていましたときにまず驚いたのは、医師がタバコを吸いながら診療している姿でした。今ではもちろんあり得ません。その当時は当たり前でした。

午前中の外来当番を終えると、再び病棟に行き、入院患者さんの検査、診察を行います。昼食の時間があれば、また時間がとれると慶應大学病院の地下の木村屋の食堂へ行きました。運悪く、先輩にみつかると「お前たち、昼飯を喰っている暇があるのか!」と一喝されて一目散に病棟に戻ることしばしばでした。周りの患者さんは驚いた目で私たちを見ておりました。

糖尿病の外来についておりましたときのこと、そこは優雅な外来でした。午前中の外来が終わると、担当医の先生と先輩の外来補助の先生とともに、今はありませんが国立競技場の下のレストランによく連れて行ってくれました。そして食事の最後はチョコレートパフェでした。糖尿病の先生、食べ過ぎでしょうといった感じでした。

午後の仕事が終わるのが大体10時から11時です。病棟担当指導医の先生が外勤を終えて戻ってこられるのが夕方以降ですが、そこから一日の結果報告と指導を受けて、その整理と処理を終えるのが、この時間でした。この頃はまだ若かったので、仲間とそれから飲みにいくことが大半でした。そして翌朝は朝6時半から仕事をといった毎日でした。当然、この間に当直があります。もちろん眠る暇もなく診療をしておりました。睡眠時間は一体何時間だったのでしょうか。重症の患者さんを受け持つともちろん眠れません。という仕事を10年以上続けてきました。冒頭で睡眠によるいろいろなミスが重大な事故につながっているとの話を致しましたが、よく大きな事故を起こさなかったなと今更ながら恐ろしく思っております。

多くの学生も夜昼無く勉強をしていますが、寝ることにより、その前に覚えたことが記憶として残されるのです。人によって適切な睡眠時間は異なります。短くてもよく、長くなければだめという人もいます。様々です。適切な睡眠時間により効率のよい毎日を送ることが最も大切であるということで、皆さんも肝に銘じておいてください。

(掲載日:2008/07/03)

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