MENU
Magazine
2012.11.08

こだわりの一品 〜長年共に旅したモノたち〜|徳田英幸(政策・メディア研究科委員長)

某月某日
毎年ある時期になると査読論文の山と戦うこととなる。特に、UbiCompとPervasive Computingの国際会議に関しては、戦い続けている。論文をきちんと査読する事も研究者としての責務の1つであると思っているが、短期間に10本近くを査読するのは、なかなか大変である。まず、論文の概要をまとめ、次に論文の強い点、弱い点を整理し、技術的な正しさ、評価結果の妥当性など、論理的な詰めに矛盾や不明な点が無いかなど詳細にチェックしている。特に、論文を不採録とする場合、できるだけ丁寧にその理由を記述するように心掛けている。レビューアとしてのエチケットである。この作業が膨大であったことが引き金で、おかしら日記がずいぶんと遅れてしまった。

さて、お題の「こだわりの一品」であるが、いろいろなモノが頭に浮かぶ。普通部生の頃は、テニス部で活動したこともあり、テニスラケットやガットに凝っていた。塾校生の頃は、部活(数学研究会コンピュータ班)を通じて、コンピュータに凝っていた。特に、FACOM-Rという初期のミニコンピュータ用に作成したBasicのベタ詰めインタープリータを開発し、はじめて動いた時の感激は今でも鮮明に覚えている。大学生の頃になると、いろいろなモノに趣味が広がっていったが、こだわっていたといえば、スキー板、ビンディング、ストック、ブーツといったスキーに関するモノと、当時、技術的に進化を遂げつつあった一眼レフカメラである。当時、シャッタースピード優先モードがはじめて搭載されたCanon AE-1を購入し、その後、プログラムモードが搭載されたCanon A-1にアプグレードした。

長年旅を共にしたCanon-A1 with FD 50mm F1.4
長年旅を共にしたCanon-A1 with FD 50mm F1.4

当時は、アナログフィルム全盛時代で、デジ一派の人たちからは想像もつかないだろうが、ISOの値は、使用するフィルムで決定され、フィルム1本分はISO感度を変更できないのが当たり前であった。なんと不便であったことか。 当時の先輩たちの中には、印画紙にプリントするのではなく、あくまでも35mmスライド用にリバーサルフィルムに凝っていた人も多くいた。ちなみに、ネガにスライドの枠がついて、投影するときは、左右、上下逆さまにし、プロジェクターの円形スライドケースに手で1枚1枚順番にセットする。 今のようなパワーポイントのスライドの順番を簡単に替えるようなことはできず、スライドケースのふたをとってから1枚1枚順番を入れ替えることとなる。

35mmスライドプロジェクターと35mmスライド
35mmスライドプロジェクターと35mmスライド

最近のこだわりの一品となると一眼レフ用の交換レンズかもしれない。最近の2,000万画素をこえる新しいデジタルカメラではレンズの粗がわかるからという理由で、新しいレンズに拘る人もいるようだが、私は、むしろ古いレンズの味を引き出したいと思っている。私の使っている古いレンズは、Canon A-1用の旧マウントFD F1.2の単焦点50mmレンズである。今となっては、誰も使用していそうもないレンズであるが、私とともに旅してきた大切なモノである。もう1つは、Nikonの24mm, 35mm, 50mm, 85mmの単焦点レンズ群である。これらは、いずれも単焦点独特の味をもっている。同じ被写体を同じ条件、同じカメラで撮影しても微妙に色味やシャープネスが違っている。ちなみに、以下の3枚を見て、どれがどのレンズによる写真かを判別出来る方は、かなりのレンズ通である。

Nikonのオールドレンズ
Nikonのオールドレンズ

最近では、解像度が2,000万画素は普通で、3,000万画素を超えるカメラが発売されている。オールドレンズにとっては酷な状況ではあるが、古いモノには、古いものの良さがある。さて、上記3枚の順番は明かさずにレンズだけを記しておくと、50mm, 85mmとあえて新しい部類の標準ズーム24-70mmのものである。

写真愛好家でレンズに拘っている人たちの中には「レンズ沼にはまる」という表現があるが、研究にはまっても、レンズ沼だけには、はまらないようにと心がけている。

(掲載日:2012/11/08)