委員長メッセージ
政策・メディアという「くくり」の意義
政策・メディア研究科は2024年、開設30周年を迎えます。
政策・メディア研究科は、総合政策学部と環境情報学部とを基礎学部とする研究科ですが、慶應義塾の多くの大学院部門とは異なり、研究科の名称に「学」の文字が入っていません。いま私たちが直面している現実の問題は多様かつ複雑であり、従来の「学問」体系に囚われていては対応が難しくなっているということが、その理由のひとつでしょう。研究者としてそれら諸問題にかかわる私たちには、軸足となる研究領域を持ちつつ、様々な問題を領域横断的・複合的に議論する広い視野、そのための人的ネットワークを構築する力、現場に出向き当事者として解決方法を模索し実装・実践するフットワーク、さらには情報を正確かつ効果的に世界に発信するスキルが求められます。これは創設当初から変わらぬ研究科の理念でもあります。政策・メディア研究科は、これらを実践する人々の「くくり」であり、試行錯誤の中で新たな「学問」のありようそのものを生み出す場なのです。
別の見方をすれば、政策・メディアという言葉での「くくり」の意味、その中での学術研究の方法論は、研究科の開設から30年経ってなお、「学問」と呼べるまでには成熟していないとも言えます。周辺開発が進む遠藤地区を中心に、TTCKをはじめ各地に存在するサテライト拠点、うちラボ、さらにはバーチャルキャンパスと、コロナ禍という困難を経験しオンラインの可能性を再認識することで、私たちの活動の「場」はこれまでにない広がりを見せています。これほどひとつの場所に閉じ籠もらない、教員・学生の集まりも珍しいと思います。実社会・仮想社会を問わず現場でのリアルな体験を重視し、空間を超越してなお「実学」を志向する姿勢、それが政策・メディア研究科ひいてはSFCの魅力のひとつです。各地に点在する研究リソースと人的リソースを有機的に連携させ、研究組織・拠点としての政策・メディア研究科を大学院のあるべき姿として整理すること、そして私たち自身の日々の営みの中で、学術研究の新たな方法論とともに熟成させていくことが、私たちの使命だといえるでしょう。
私たちにとってこの数年は、コロナ禍を脱し日常を取り戻すという前例のない日々でした。一方でこの時間は、これからの学術研究のありようと大学院という研究組織の存在意義、さらにはフィジカルな研究拠点としてのキャンパスの将来ヴィジョンについて、見つめ直すよい機会ともなりました。そこでの気づきをみなさんと共有し、次の30年に向けて政策・メディア研究科が成すべき新しい取り組みを、みなさんとともに考え、実装し、実践していきたいと思います。
2023年10月
大学院 政策・メディア研究科委員長 高汐 一紀