MENU

都市の微生物を、人の健康のために

伊藤 光平 Kohei Ito
学部:環境情報学部4年
出身校:鶴岡南高等学校(山形県)

スタートは先端生命科学研究所

私は山形県鶴岡市の出身で、地元に慶應義塾大学鶴岡タウンキャンパス(TTCK)があります。そのTTCKの先端生命科学研究所(以下、先端研)に興味を持ち、高校1年の時に特別研究生になったことが現在につながっています。冨田勝所長(環境情報学部教授)の「勉強のための勉強はしないほうがいい」といった言葉に代表されますが、先端研の考えは私の理念と重なって、ここなら人と違うことに取り組んで、社会に強いインパクトを与えることができるのではないかと思いました。最初に指導役として付いてくれた大学院生のアドバイスで、テーマにしたのが微生物です。大学でも研究を続けたかったので、自然な流れでSFCに入学して、先端生命科学研究会に所属しました。
先端研時代からずっと「人体微生物」の研究をしていたのですが、大学2年になった頃から、未開拓の分野だった「都市環境微生物」に関心が移っていきました。そこで、日本の都市環境における微生物のDNA解析プロジェクトとして、他大学の友人と「GoSWAB」を立ち上げました。こちらは都市の微生物群集の研究、研究会では人に有益な微生物を調べる個別微生物の研究といった分かれ方をしています。「GoSWAB」の具体的な活動としては、まず都市のさまざまな場所で、机や椅子、床などのいろんなマテリアルを綿棒(SWAB)でこすって微生物を採取する。そして採取した微生物からDNAを取ってそのゲノム配列を解析して、どんな微生物が存在するかを明らかにします。どんな機能を持っているかが分かれば、人にどんな影響を与えているかを推測することができます。

時間を自由に使えるSFCの魅力

今までに都内10箇所以上で採取した500以上のサンプルからは、人が触れる部位、マテリアルによって微生物群集が違う、といったことが示唆されています。その結果は、国内学会・国際学会でも発表して一定の評価を得ています。
このような研究活動に取り組んでいてSFCでよかったと思うのは、時間を自由に使えるところです。必修に追われずに学びたいことを学んで、肝心な研究に時間を割くことができます。また、例えばバイオの研究において統計の知識が足りないと思えば、統計解析やベイズ統計の科目を履修するなど、必要に応じて知識を補えることも魅力だと思います。「GoSWAB」は研究室に依存しない学生団体の活動なので、SFC独自の助成制度である山岸学生プロジェクト支援も力になりました。

世界を変える「30under30」の一人に

私は、都市のウェルビーイング的な、人が健康的に暮らすためのツールの一つとして、微生物には大きな可能性があると考えています。例えば、次世代の空間デザイン。人が触れる部位や高低差などによる微生物群集の違いから、机や椅子などのマテリアル素材を何にすべきか、といったことが検討できるようになります。あるいは、院内感染への対策。生息する微生物に多様性を持たせることが、健康的な室内環境作りに役立つかもしれないと言われています。
一方で、私たちは現在存在している微生物の1%くらいしか知らないと言われています。毎年どんどん新しい微生物が見つかるので、そのペースから予測された数字です。実際私たちの研究で採取した都市の全ゲノムを解析すると20%くらいは未知の微生物だったりするので、そういうところにも注意喚起や問題提起のヒントが隠されているかもしれません。
経済誌『Forbs Japan』の「30under30(世界を変える30歳未満の30人)」に選ばれたのは、ヘルスケア&サイエンス部門で、「GoSWAB」の活動が評価されたのだと思います。プロボクサーやアーティスト、社会起業家など、違う分野で活躍されている方々と一緒に受賞できてうれしかったです。

東京オリンピックに微生物の視点

今後のプランとしては、「東京オリンピックの微生物学的なインパクト」を計測したいと思っています。開催の「前・中・後」で微生物の分布や機能にどのような変化が起こるのか。変化というのは、多くの外国人が訪日することによる変化なので、今は外国人がどこに来るかを予測して、どの場所で採取すると面白いかを考えているところです。解析のアプローチも今までとは違う方法を検討しています。
SFCには、やりたいことを見つけやすい環境があると思います。ただし、探さないと見つからないので、能動的に動くことが大切です。やりたいことがある人は、まずそれをやってみる。最初はうまくいかないのが当然なので、ちょっと我慢して気持ちよく終われるところまでやりきってほしいです。私もなかなか結果が出ませんでしたが、続けたからこそ今があります。そして、違う分野の友人をたくさん作る。そこで生まれる意見交換やコラボレーションは、研究の幅を広げてくれると思います。