執筆者・論考紹介
流動する世界秩序とグローバルガバナンス

権威主義政治に接近する
台頭する権威主義と後退する民主主義のなかで

加茂 具樹

加茂 具樹

総合政策学部 教授
総合政策学部長

何を論じたのか

国際秩序は大きな変動期にあります。既存の国際秩序のなかで平和と繁栄を享受してきた私たちは、目の前ですすむ秩序の変動を感度よく捉え、冷静な現状分析をするために必要な、優れた国際的センスを備える必要があります。新しい秩序の萌芽は、既存の秩序が後退してゆく過程に現れるのだとすれば、秩序の流動を牽引している中国やロシアをはじめとする権威主義国家、権威主義政治への理解が不可欠です。こうした考えから本論は、権威主義政治を論じました。

かつて私たちは、自由民主主義にもとづく政治体制が既定値であって、その後退はありえないと考えていましたが、そうはなっていません。「権威主義の台頭と民主主義の後退」への警鐘が鳴らされています。いったい何が起きているのか。なぜ権威主義体制は脆弱だと考えられてきたのか。なぜ権威主義体制は民主化すると考えられてきたのか。
本稿は、こうした議論をつうじて、流動する国際秩序のその先を展望するためには、雑駁な「自由民主主義 vs. 専制政治・権威主義政治」の二項対立的思考を越え、世界の多数を占め、多様な権威主義政治への理解を深めて豊かな国際秩序観を涵養する必要性があると論じています。

執筆者の研究紹介

人類は独裁体制のもとで生きてきた時間が圧倒的に長い。いまも世界の人口の過半数以上は独裁体制のもとで生活しています。民主体制のもとで生きている私にとって、独裁政治は不思議な存在です。だから、この独裁体制に関心がある。きっと私は人間に関心があるのでしょう。政治学の多くが民主体制を研究対象にしていることも、私が独裁政治を理解したいと思わせる理由かもしれません。

いま国際秩序が変動していることも、独裁政治への関心をかきたてます。秩序が流動する過程に、新しい秩序は萌芽します。国際秩序の流動を牽引する新興国家、独裁国家は面白い存在です。私は独裁国家を地域研究と比較政治学、国際政治学が交差する領域で研究しています。

私の具体的な研究関心の対象は中国です。中国共産党による一党体制の生命力の源泉です。独裁政治、権威主義政治は不安定なものであって、国家の経済発展と安定を実現するためには自由民主主義の政治が条件とみなされてきました。しかし、中国は、そうした展望とは異なる姿を示しています(もちろん、これまでのところですが)。なぜ一党支配は持続するのでしょう。なぜ高度成長を実現できたのか。実は、既存の知見(少なくとも30年前の大学で学んだ理論)だけでは説明できない問いが、中国政治には沢山あります。比較政治学の理論を踏まえて中国への理解を豊かにする。中国地域研究をつうじて比較政治学の発展に貢献する。国際政治も解る。そうした研究です。

なぜ中国なのか。それは話しが長くなるので、おめにかかったときに話したいと思います。

筆者が最近取り組んだ翻訳書『権力の劇場』

筆者が最近取り組んだ翻訳書『権力の劇場』