執筆者・論考紹介
言語文化とコミュニケーション

イスラエルのアラブ人──二つの言語のはざまで

山本 薫

山本 薫

総合政策学部 専任講師

何を論じたのか

私の担当した章では、イスラエルのアラブ人市民が直面する格差や差別、アイデンティティの問題を、公用語や言語教育、作家たちの言語選択という観点から論じました。中東のパレスチナにヨーロッパから移住してきたユダヤ人がイスラエルを建国したことで、約80万のアラブ人が居住地を追われ、パレスチナ難民になったことは広く知られています。しかしその一方で、約16万人が様々な経緯から領内に留まり、のちにイスラエル国籍を与えられたことはあまり知られていません。現在ではイスラエル人口のおよそ2割を占めるこれらアラブ人市民が話すアラビア語と、ユダヤ人市民のヘブライ語というふたつの言語の関係は、両市民の社会的・政治的地位や権利と深く結びついており、イスラエルが排他的な「ユダヤ人国家」の道を進み続けるのか、両者が対等に共生できる「民主国家」を目指すのかという、国家のあり様とも直接的に結びつく大きな問題なのです。

執筆者の研究紹介

authors-kaoru-yamamoto-01.jpg私の専門はアラブ文学です。古典から現代文学まで様々な題材に関心があり、文学作品以外にも音楽や映画など、中東・アラブ圏の文化・芸術全般を幅広く研究対象としています。特に今回論じたパレスチナ、なかでもアラブ諸国と対立するイスラエルに暮らすパレスチナ・アラブ人が置かれた板挟みの生に深い関心があり、代表的な作家であるエミール・ハビービーの小説をアラビア語から日本語に翻訳しています【写真添付】。また最近では、若い世代に広がっているラップ・ミュージックも考察の対象にしています。日本ではあまりなじみがなく、誤解されがちなアラブの社会や文化について、その歴史的ないし同時代的な経験の持つ意義や魅力を伝えていきたいです。