執筆者・論考紹介
言語文化とコミュニケーション

外国語学習デザインの構築と運用──SFCドイツ語学習環境における実空間とサイバー空間の連動

藁谷 郁美

藁谷 郁美

総合政策学部 教授

何を論じたのか

「外国語学習デザイン」について考える際、その構成要素は教材や学習システム、多様な教授法など多岐に亘る。とりわけ我々を取り巻くネットワーク環境が急速に多様な可能性を拡大させる今日において、学習環境の多様性もまた大きく変化しつつある。デジタル化された教科書教材は、様々なデバイスを通して展開可能なeBookや教材として使用される。かつて教室や勉強机での実空間が中心であった学習空間は、仮想空間との共存へと大きく変化しつつある。「外国語教育をデザインする」ためには、この日々刻々と変化する生活の「場」を基盤に考える必要がある。この章では、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(本稿では以降「SFC」と記す)のドイツ語教育の取り組みを具体的な事例として挙げながら、外国語教育環境の変容とその背景、教材の担う課題と教材開発、外国語教育環境デザインの運用と評価について論じる。

執筆者の研究紹介

私は「ことば」に関連する分野を中心に多様な研究活動をおこなっています。本書でテーマとしたドイツ語教育研究はもとより、ドイツ語圏の文学研究、宗教言語分析、日独交流史、メディア研究等に関連する論文を執筆しています。SFCでは他分野の研究者との共同研究も多く、教育工学の分野でGPS機能とデータベースシステムをドイツ語教育に応用した「ユビキタスドイツ語学習環境の構築・運用・評価」はドイツ語教育の実践につながる独自性の高い研究成果を上げました。メディア研究の分野ではゲーム研究者との共同研究を通して異文化間のローカライゼーションに関連する共同研究論文を執筆しています。個人研究として進めているドイツ文学の分野では複数の翻訳書や舞台作品の字幕・テロップ作成も手掛けています。特に関心の高い視点は、宗教言語(聖書言語)の分析を手法とする文学テキスト分析で、言語学分野の学術辞典においては聖書用語の項目を担当しています。最近では、日独交流史を宗教的視点から捉える研究に取り組んでいます。特に明治期のドイツ語圏派遣留学生の軌跡を、地理情報システム(GIS)を通して分析することで人的ネットワークの可視化につなげる研究をおこなっています。

さまざまな研究は常に有機的につながっています。はじめに学問分野があるのではなく、問題の発見と解決の中で必要となる学問が明らかになっていきます。日頃授業で接する学生諸君にも、常に自分の問題意識を大切にしてほしいと思っています。

筆者が日本語歌詞監修を手がけたオペラ『Gogo no Eiko』 (Hans Werner Henze)のCDジャケット"