執筆者・論考紹介
流動する世界秩序とグローバルガバナンス

自由、選択と人間の不安

VU, Le Thao Chi

VU, Le Thao Chi

総合政策学部 専任講師

何を論じたのか

本稿の主題は、問題解決のために何を信頼し、どのような情報を信用するのかを問い続ける人間です。難病の克服とか感染症の抑制、老後の生活保障、労働環境での安全などが解決を必要とする問題例でしょう。いずれも効果的な解決には高度に専門化が進んだ知識を必要とします。一般の人間にはそうした知識を提供してくれる人間ないしは組織を信頼し、信用する以外の選択肢はあまりありません。 社会学者のニコラス・ルーマンやアンソニー・ギデンスが注目するのはこうした知識の専門化が近代化を進める分業の産物であり、そうした知識への人間の依存です。例えば、人間は専門知識が集積され、その有効性を成果とする病院とか銀行とかを信用し、問題解決のために活用することを疑いません。しかし、そうした組織とか専門家の活用コストは上昇しつづけています。必要な専門知識が実質的に不足していることになっているのです。 本稿では、専門知識のコスト上昇を念頭に、グーグル、アマゾンなど90年代後半から急速に普及し始めたプラットフォームの存在に注目します。鍵となる疑問は一つです。問題解決に伴う不安から少しでも自由になるために、人間はプラットフォームで流通する知識・情報を専門化した組織あるいは専門家と同じように信頼し信用しているのだろうか。

執筆者の研究紹介

ベトナム中部における枯葉剤(エージェント・オレンジAO)の人的被害(身障児)とそうした障害児を抱える家族(AO家族)の生活を観察することから始めた私の研究は、現在では二つの方向で動いています。一つはAO家族の調査の持続ですが、同時に対象を非常時での普通の人間の生活観察に広げています。ここでは、日本の富士山とかインドネシアのメラピ山という二つの活火山周辺の住民の意識調査を加えています。また、コロナ禍のような非常時での住民調査もこの流れに加えました(例えば、2020年から現在までベトナムのホーチーミン市における低収入層地区での調査)。もう一つの方向は上のような現地調査を進める中から必要となりました。社会的な存在としての個人の行動を観察する時に求められる分析的な視点です。ここではダニエル・カーネマンなどの行動経済学だけでなく、バーガー・ラックマンなどの社会的構築主義さらにはジェローム・ブルーナーなどのナラティヴ論などに注目しながら独自の質的調査方法の樹立を目指しています。