執筆者・論考紹介
公共政策と変わる法制度

大都市自治体の経営改革――臨床的知見を手がかりに

上山 信一

上山 信一

総合政策学部 名誉教授

何を論じたのか

「大都市にも戦略と経営が必要」というのは多くの人が同意する正論です。しかし現実には国の規制、変化をおそれる一部住民、議会、労働組合の協力が得られず、大都市自治体の改革はなかなか進みません。例えば2000年代前半の大阪市では、古くて汚ない地下鉄トイレに象徴されるサービス低下と財政赤字の増大が同時に進行する状況でした。しかし2000年頃から海外のニューパブリックマネジメントの考え方や成功事例に触発され、わが国自治体にも民間企業の事業評価の方法や民間委託・民営化の手法が導入されました。そして首長(知事や市町村長)主導のもとで市町村合併や地下鉄の民営化など大きな改革もできるようになりました。筆者はもともと大企業の改革を専門とする経営コンサルタントでしたが、福岡市、大阪府・市、新潟市、東京都のそれぞれで首長の参謀(特別顧問or政策顧問or都市政策研究所長)として経営改革を設計し、またその実行のやり方を助言してきました。この章では筆者が各都市でプロデュースしてきた改革を振り返り、4つの都市の改革の共通点や改革を成功させる条件を整理しました。また、これから大都市の改革を進める人たちに向けた助言、さらに今の国の制度が抱える課題を洗い出しました。

執筆者の研究紹介

SFCでは私は「企業経営」「公共政策」「改革とイノベーション」の3つの授業を教えてきました。もともとは国家公務員(旧運輸種、現国土交通省)でした。米国留学後に転職し、多国籍のコンサルテイング企業マッキンゼーで経営コンサルタントの修行をしました。この20年ほどはそこで学んだ企業の戦略策定や組織改革のノウハウを、企業のほか、政府や自治体の顧問や委員として応用展開する仕事をしてきました。また、自らがやってきた水道、地下鉄、大阪都構想などの改革の事例を整理し、今後への教訓や制度改革の必要性を理論化してきました。本章のタイトルに「臨床型知見」と記したゆえんです。さらに、民間企業と行政機関の経営や改革の違いに着目した「公共経営」の理論と事例分析を続けています。営利を追求しない行政機関と営利企業ではおのずと行動原理は異なります。しかし、最近は企業もパーパス(理念)や社会的使命を意識するようになり、行政機関も効率や企業との連携を求める時代になりました。これからも新しい「官と民」「公と私」の関係を探り続けていくつもりです。

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