執筆者・論考紹介
流動する世界秩序とグローバルガバナンス

サイバー・宇宙空間・技術のガバナンス

土屋 大洋

土屋 大洋

常任理事/大学院政策・メディア研究科 教授

何を論じたのか

人類の歴史は争いの歴史と言っても過言ではないかもしれません。長い歴史軸で見れば、人類は戦争による死者を減らしつつあるでしょう。しかし、21世紀に至っても新たな戦争が行われています。人類史の中で争いの領域となったのは、長い間、陸と海であり、20世紀のはじめから空が加わりました。そして、20世紀後半になって宇宙が加わり、20世紀の末にサイバースペースが加わりました。

本章では、第4の作戦領域と呼ばれる宇宙、第5の作戦領域と呼ばれるサイバースペースについて検討しました。二つの領域は、技術を通じてアクセス可能であり、技術開発競争が国際的な優位を作る側面があります。そうでありながら、それらの技術のガバナンスはいまだ未熟な段階にあります。それらを適切なグローバル・ガバナンスの下に置くにはまだ時間がかかるでしょう。

執筆者の研究紹介

大学の学部生の頃から技術が国際関係にどのような影響を与えるかに興味があり、学部の卒業論文は日米半導体摩擦について書きました。大学院生の時にインターネットに触れる機会があり、瞬時に格安でつながるコミュニケーションが変える国際関係について修士論文と博士論文で考察しました。新たな問題が生まれるとしても、インターネットによるコミュニケーションの拡大は国際関係を良い方向へ変えると考えていました。

しかし、大学院を修了して研究者として働くようになり、1年間の在外研究で米国のワシントンDCに滞在していた時、2001年の対米同時多発テロ(9.11)を体感しました。テロの当日は出張でサンフランシスコにおり、1週間飛行機が飛ばず、ワシントンDCに戻れませんでした。その間、これからインターネットを悪用する人たちが増えるに違いないと直感し、サイバーセキュリティの研究に移行しました。

やがてサイバーセキュリティが国際関係論においても重要課題として議論されるようになり、さまざまなサイバー犯罪、サイバースパイ活動、サイバー攻撃が展開され、日々驚かされています。サイバーセキュリティをどうグローバル・ガバナンスにおいて位置づけていくかに関心を持っています。