執筆者・論考紹介
言語文化とコミュニケーション

朝鮮民族と言語、そして政策

髙木 丈也

髙木 丈也

総合政策学部 専任講師

何を論じたのか

ある民族を規定する要素には、どのようなものがあるでしょうか。様々な要素が考えられるでしょうが、私は本書の中でとりわけ「言語」に注目して論じています。そして、この言語を考える際に何より重要なのが、言語政策と話者の存在です。本稿では、朝鮮民族を事例として実際に朝鮮語が使用される地域でどのような本体計画(corpus planning)や地位計画(status planning)が実行されてきたのか、また当事者としての朝鮮語話者は、与えられた環境の中でどのような言語生活を送ってきたのかを紹介し、言語の管理と民族性継承がいかに関わっているかを考える契機を提供しました。

本稿の特徴として、「朝鮮語話者」を朝鮮半島内部に限定せず、アメリカ合衆国、中国、旧ソ連地域(ロシア・中央アジア)、そして日本など世界各地に見出している点があげられます。グローバルな視点から民族や言語文化、アイデンティティの問題を捉えたとき、同時代におけるナショナリズムやディアスポラといった問題を考える糸口にもなると考えています。

執筆者の研究紹介

韓国や北朝鮮で主に使用される言語は、日本の学界では一般に「朝鮮語」と称されます(ここでいう「朝鮮」は「朝鮮半島」という時のそれと同義です)。そして、この朝鮮語は、韓国や北朝鮮における「国語」であるだけにとどまらず、世界において使用が認められます。こうした各地の社会や、そこに暮らす人々の実情を「言語」という切り口から調査し、それにより当該社会の特性、あるいは民族・話者が持つ普遍性・特殊性を解明するのが私の最大の関心事です。

このような研究をするには、少なからぬ困難も伴います。まず極めて多様な朝鮮語の方言を駆使しなければならないこと(日本語でも方言は難しいですね)。さらには、多様な民族社会に対する理解も求められます。しかし、フィールドワークを通して、多くの人々と語り合う中から得られる知見や喜び(時には驚き)は計り知れないものです。こうした研究をさらに続けることで、「言語学」や「社会学」、「文化人類学」などを融合させた、より高次の知見を発信したいと考えています。