執筆者・論考紹介
言語文化とコミュニケーション

語彙意味論の冒険──fairの文化モデルに向けて

大堀 壽夫

大堀 壽夫

環境情報学部 教授

何を論じたのか

英語の日常会話ではしばしばthat's not fair! という言葉が飛び出します。国際関係の舞台でも、○○ is not fair! (○○には国名が入ります)というコメントが現れます。ではfairとはどのようなことを言うのでしょうか? equalとの違いはどこにあるでしょうか? また、これらは人間にとって普遍的な観念でしょうか? このたび書かせていただいた章では、英語で日常的に使われる言葉としてのfairについて考察しています。テキストの前後関係を詳しく見ていくことで、それが使われる典型的な場面の特徴を明らかにすることを試みました。日常言語としてのfairと、政治や経済の世界でのfairには隔たりがあるかもしれませんが、後者をよりよく理解する上でも、前者の語法を考えることには意義があることと思います。今回は分析枠組みの準備を行いました。今後はコーパスデータに基づいて意味構造の可視化に向かう予定です。

執筆者の研究紹介

私の研究分野は言語学、すなわち言葉の研究です。今回の考察をご覧になるとわかるように、言葉の背景にはしばしば文化や歴史が関わってきます。また、「言葉を使う」という時、そこには文法も関わってきます。単語の選択だけでなく、構文の選択もまた、ものごとの受け取り方や人との関わり方を反映します。例えばfair enoughという「構文」はどのような時に使われるリアクションでしょうか?(ヒント:equal enoughとは言いません) こうした具体例をコーパス分析、多言語比較、そして直観による洞察を組み合わせつつ、言語によって人はどのように世界についての認識を共有し調整するのかを明らかにする−−これが私にとっての大きなテーマです。プロフィールに出してある「意味論、機能的統語論、談話分析」という専門分野のキーワードは、どれもこうした関心に結びついたものです。多様で豊かな言葉の世界を探求しようという方が、これからも続々と現れることを心から期待しています。