執筆者・論考紹介
言語文化とコミュニケーション

政治理念の言葉──フランスの六月蜂起が問いかけるもの

宮代 康丈

宮代 康丈

総合政策学部 准教授

何を論じたのか

政治を考え、政治を行うためには、どのような政治を目指しているのかを示す理念が必要です。その理念は政策という形で実行に移されます。ただ、政治を導く理念を語る言葉は、往々にして曖昧です。その曖昧さは必ずしも欠陥であるとは限りません。大局的な視点から政治の方向を示そうとすれば、どうしても言葉の抽象度は高くなります。ただ、抽象度の高い理念は、それを具体化していく段になると、論争や対立を生じさせるものです。当の理念をどのように解釈するかということが問題になるからです。私が担当した章では、このような論争や対立を、19世紀中頃にフランスで起きた六月蜂起と呼ばれる出来事を例に取って考察しました。

フランスでは、1848年に二月革命が勃発し、王政が瓦解して、再び共和国(第二共和政)が成立します。その直後から、共和国という理念の解釈をめぐって対立が生じました。第二共和政は、「民主共和国」と「社会民主共和国」という二つの捉え方の間で引き裂かれ、樹立から3ヶ月も経たないうちに、六月蜂起という一種の内戦に陥ります。共和国理念をめぐる対立に起因するこの六月蜂起がどのような悲劇をもたらすに至ったのかを、本論考では示しました。

執筆者の研究紹介

政治哲学やフランス哲学・思想を主に研究しています。特に、デモクラシーの捉え方として、リベラリズムと共和主義のどちらが適切なのかという問題に長く関心を寄せてきました。この問題について、19世紀フランスの思想家でもあり政治家でもあったアレクシ・ド・トクヴィル(Alexis de Tocqueville 1805-1859)に焦点を当てて考察したものが、私の最初のまとまった研究(博士論文)です。その博士論文を半分程度に縮約し、他のフランスの思想家たちによる共和主義哲学や連帯主義に関する研究も加えて、パリ・ソルボンヌ大学出版局から刊行したのが、写真の著作です。その他、倫理学や現代フランス社会の動向にも興味を向けています。