執筆者・論考紹介
社会イノベーションの方法と実践

減災ケアのためのコミュニティ情報学

宮川 祥子

宮川 祥子

看護医療学部 准教授

何を論じたのか

人々の生活を根こそぎ破壊するような災害は、日本だけでなく、世界各地で起きています。災害への備え、というと、3日分の水・食料・トイレなどを思い浮かべることが多いですが、実際には、住む場所、働く場所、学ぶ場所、集う場所を失った人々がそれぞれの生活を、そしてコミュニティを再び作り直していくというのは年単位の長い長いプロセスです。そしてそこには、災害直後とは異なる様々な障害が立ちはだかっています。「生き延びること」だけでなく、生き延びた後の生活再建までを支えられる社会になるには何が必要なのか。そして何が欠けているのか。これがこの論考の底流となる問いかけです。

筆者は、ITを活用して災害支援を行う「情報支援レスキュー隊」および減災ケアのための地域プログラムを開発・提供する「EpiNurse」のメンバーとして様々な災害からの復旧・復興に関わってきました。この論考では、この経験から構築された「減災ケアのためのコミュニティ情報学」という新たな考え方を紹介し、生命・健康・生活を守り回復させるために必要となるロール・ルール・ツールについて解説します。

執筆者の研究紹介

シュレディンガーは、「生命は負のエントロピーを食べている」、すなわちそのままでは無秩序さ(エントロピー)に負けて崩壊してしまう生命システムを維持するために、秩序の源である「負のエントロピー」を取り込み続けているのだと指摘しています。情報とは、不確実性の海を航海していくための指針となる手がかり、であり、まさにシュレディンガーの言う負のエントロピーです。災害によって社会システムや人の生活・生命システムの秩序は大きなダメージを受けます。病気や障害、加齢などによって健康の課題を持つ人も同様です。私の研究テーマは、私たちの健康や社会を脅かす大きな危機に直面したときに、生活の秩序を取り戻しその機能を回復させていくために必要となる情報と情報技術についてです。災害時の支援連携のための情報システムや、病気があっても地域で生活を送る人たちを支えるためのデジタルものづくりが最近の主な研究課題です。この他にも、困りごとを抱える人たちのニーズを解決するための「情報の流れ」を整えるための様々な研究に取り組んでいます。

近著:「人工知能はナイチンゲールの夢を見るか」と"Disaster Nursing, Primary Healthcare and Communication in Uncertainty"