執筆者・論考紹介
総合政策学の方法論的展開

数学と総合政策学

金沢 篤

金沢 篤

総合政策学部 准教授

何を論じたのか

数学はあらゆる学問の基礎となる汎用性が高い「古くて新しい学問」です。実際、純粋な学問として長い歴史を持つ一方で、物理学、工学、経済学、計算機科学といった現代情報社会の基礎分野にも深い影響を与えてきました。古代ギリシアの哲学者プラトンが国家運営に科学的な方法論を導入し、マテーマタ(数学)を思考の基礎と位置付けた教育をアカデメイアで行なったように、一見遠く離れた分野に見える数学と政策学は不思議な繋がりがあります。本稿では数学とは何か?という基本的な問いから始め、数学の歴史を振り返りつつ、数学が総合政策学の中でどのように活用できるのかに関して論じました。また教育の観点から、論理と抽象の両輪からなる数学的思考法の重要性も解説しています。福沢諭吉が「学問のすゝめ」で説いた「学び」と慶應義塾大学の建学の理念・精神の一つである「実学」を一つの軸とすることで、数学者が執筆した趣の異なる文章として楽しんでもらえるよう工夫しました。

執筆者の研究紹介

私の専門は代数幾何、シンプレクティック幾何と呼ばれる分野です。前者はデカルトによる幾何学の代数化に起源を持ち、代数的に記述される空間に関する幾何学です。一方で、後者は解析力学を幾何学的に理解する過程で生まれ、位置と運動量のなす相空間を抽象化した幾何学です。これら2つの幾何学の立場から、数理物理に由来する特別な対称性を有する高次元空間を私は研究しています。高次元空間と言うと難しく聞こえますが、日常生活で使っている高次元データを抽象化したものと言っても間違いではありません。実際、現実世界のデータ分布はある種の幾何構造を有している(多様体仮説)と考えられており、理論と実用の両面から活発に研究されています。データ集合の大域的構造の解析という最近の問題には、曲率やトポロジーなどの数学的手法が有用であることが明らかになっています。情報幾何や位相的データ解析などはその典型例です。私自身の研究は応用を特に意識したものではありませんが、興味の幅を広く持って複数の分野にまたがる研究を目指しています。