執筆者・論考紹介
公共政策と変わる法制度

積立方式の年金制度の問題点――その失敗の歴史

星田 淳也

星田 淳也

何を論じたのか

「少子高齢化が進む日本のような国では、現在の現役世代から高齢者に所得移転する賦課方式の年金制度は持続不可能。自分たちの将来のために現役時代の収入の一部を貯めておく積立方式に転換すべきであり、そうできないのは政治や行政の失敗。」 私が直接話した学生たちのほとんど全員がこのことをまったく疑っていませんでした。一見当然のように思えるこの主張はそもそも正しいのでしょうか? これが正しいのであれば、なぜ日本だけでなくほぼすべての先進国で積立方式ではなく賦課方式の年金制度が採用されているのでしょうか? この答えは、「賦課方式から積立方式への転換が難しいから」ではなく、「積立方式というのは世界中で失敗してきた、望ましくない制度」だからです。そしてこのことは、この『総合政策学をひらく』の他の多くのテーマと異なり、少子高齢化といった時代の変化があっても変わらないことなのです。

読者の皆様にはこの機会に、単に年金制度に理解を深めるだけでなく、冒頭の主張のような「ぱっと見では正しく思えるが、精査するとそうではないということがある」ことをご理解いただければと思っています。

執筆者の研究紹介

私は厚生労働省からの出向で2020年4月よりSFCに来ており、この4月に厚生労働省に戻る予定です。SFCには3年間大変お世話になったところです。

専門分野は社会保障政策と労働政策です。社会保障政策では特に医療の国際展開つまり医療制度の整備が不十分な国においていかに「良い医療制度」(多くの国民にとって手が届き、かつ質の高い医療が提供される制度)を構築するか、また労働政策では働き方の観点からどのようによりジェンダー平等な社会が構築できるかに関心を持っており、研究会や授業での学生とのやりとりにヒントを得て考えを深めることも多くあります。年金は関心の中心ではありませんが、多くの人に伝わるよい機会ですから論じさせていただきました。

厚生労働省に戻った後は実際の政策に携わることになるでしょうが、SFCで考えたことを活かし、また逆に将来的には政策立案過程での経験を学問に活かす、そのようなことができるよう、努力していきたいと思っています。

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