執筆者・論考紹介
流動する世界秩序とグローバルガバナンス

ロシアとユーラシア世界

廣瀬 陽子

廣瀬 陽子

総合政策学部 教授/湘南藤沢メディアセンター所長/KGRI副所長

何を論じたのか

まず「はじめに」では、本書がいかに現在の複雑な世界を分析する上で重要なのかということを、ウクライナ戦争を事例に説明してみました。

そして、「ロシアとユーラシア世界」では、ロシアを中心としたユーラシア世界の見方のエッセンスをまとめました。精力圏構想に基づいた外交を行ってきたロシアにとって、最も重要な影響圏であるユーラシアは極めて重い意味を持っています。そのユーラシアに関するロシアの思想、外交スタンスなどをまとめた上で、具体的な政策についても解説しています。それらの中には、狭間の政治学、ハイブリッド戦争なども含まれており、本稿を読めば、ロシアの行動原理、ロシアの動きの意味などが理解でき、ユーラシアをより深く見ることができるようになると思います。

執筆者の研究紹介

私は長年、旧ソ連地域の研究をしつつ、それを国際政治とリンクさせて分析するというような研究をやってきました。その中で、特に重要な事例として取り組んできたのが、旧ソ連の戦争や国際関係です。

その中で、大学院博士課程の時代に、国連大学秋野フェローとしてアゼルバイジャンに在外研究をしたことで、今につながる重要な研究のポイントを掴むことができました。当初、在外研究の目的はアゼルバイジャンとアルメニアの間の「ナゴルノ・カラバフ紛争」の実態を現地の視点で明らかにすることでした。しかし、現地で研究を行う中で、旧ソ連の小国が大国の中で求められるバランス外交の重要性を学びました。これを私は「狭間の政治学」と呼んでいます。また、ロシアが旧ソ連諸国への影響力を確保するために利用していた「未承認国家」、すなわち国家の制裁を整えながらも国家承認を得ていないエンティティの存在の重さも実感しました。

そのため、自分の研究の軸に、常に「紛争・戦争」「狭間の政治学」「未承認国家」があり、それらに関する論文や著書も多く出してきました。これらの軸に基づく研究の一つがロシアのハイブリッド戦争に関する研究であり、今現在進行中のウクライナ戦争を分析する上でも重要なポイントとなっています。本書の拙稿も、まさにこのような研究のエッセンスをまとめたものといえる形になっています。