執筆者・論考紹介
公共政策と変わる法制度

変革期の行政法

長谷川 福造

長谷川 福造

総合政策学部 専任講師

何を論じたのか

法に関する学術的考察は、解釈論と政策論に大別することができます。既存の規律を事案に当てはめる際の理論的整序を分析するのが解釈論です。他方、社会の様々な問題を法整備によって解決する枠組みを検証するのが政策論です。行政活動の役割を一言で表すなら、人々や社会が直面している課題を規制や福祉の制度を通じて解決していく活動と言えるでしょう。そのため、他の法分野と比べて政策論の比重が大きいのが行政法の特徴です。

新型コロナウイルス感染症への対応やデジタル化といった近時の社会におけるトピックが、行政法の分野でどのように作用しているのか。日本の法制度の淵源の一つであるドイツの実例と法改正を中心に論じることで、変革期における行政法のあり方を検証したのが本稿です。

また、本稿では、受容や協働といった比較的最近の行政法学の視点にも触れています。こうした視点が実際の政策立案や制度設計でどのように機能していくか。将来に向けた問題提起も含めて論じていますので、読者のみなさんが考える一助になればと思います。

執筆者の研究紹介

これまで主に研究対象としてきたのは、行政計画の法的分析です。業務のマネジメントを整理する仕組みはPDCAサイクルなど様々ありますが、計画立案と実施を合理的に行うことの重要性は行政活動でも同様です。従来の法理論では、事後的な権利救済と判例解析が主流で、行政計画の検証はあまり活発ではありませんでした。法学の世界で行政計画があまり取り上げられないのはなぜなのかという素朴な疑問が、研究の出発点の一つです。

日本の法制度は、明治維新に際してヨーロッパの仕組みを参考に築かれました。ドイツで生まれた理論構成は、現在の行政法学にも影響を及ぼしています。ドイツにおける行政計画の法的解析は、空港などの大規模施設の計画からまちづくり計画まで、広い範囲で多角的に行われています。こうした経緯と実情を踏まえて、地理的環境や社会基盤の相違に留意しながら、日独の行政法理論の比較検証を行うことに取り組んでいます。

また、最近は行政のデジタル化や効率化に関する理論的問題点も浮き彫りになっています。こうした新たな問題についても、海外と日本の制度を比較して研究しています。