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SFCの革命者(アーカイブ)
2010.03.29

データベースで、実世界の景色を変えていく。

SFCの革命者

データベースで、実世界の景色を変えていく。


清木 康
環境情報学部教授

データベースを使って真に知的な社会を作っていきたいと語る清木康教授。実社会との接点を探しデータベースが持つ可能性を切り開き続ける清木教授に、データベースとはどのようなものなのか、これからの社会におけるデータベースのあり方などについて、実際の研究事例を交え話を聞いた。

現実社会をシステムの中に写像したい

革命者私がデータベースに出会ったのは工学部の学生だった1977年、大学の卒業研究で後に初代環境情報学部長となられる相磯秀夫教授の研究室に入ったことがきっかけでした。当時は1970年に現在のデータベース技術の基礎となる論文が提案されたばかりで、他のコンピュータ技術の分野に比べてもまだまだ立ち上がり期でした。ただ、教授をはじめ研究室ではデータベースが今後のコンピュータサイエンスの中で非常に重要となる技術になると確信していて、情報が豊富とはいえない中、手探りで世界中の先行研究や論文、必死で集めてみんなで毎日のように輪講会を開いていました。データベース研究は「現実の世界で起こっている事を、いかに情報システムの中に記録として写像するか」というものです。実社会とコンピュータを繋ぐ研究の中では非常に実世界に近いテーマといえます。私はその「人間社会に近いところでコンピュータサイエンスがどう発展できるのか」という面を追求していくことに、どんどん面白さを感じていきました。

文脈を判断して情報を選び出す

革命者データベースのシステムって実際には皆さんもよく使っているんです。人間の脳でいうと記憶系に対応していて、「どう覚えて、どう思い出すか」という機能にあたります。それをコンピュータが行うためにはどうすればよいのかという研究です。研究を進めていくと人間とコンピュータでは記憶系に大きな差があることがわかりました。人間は文脈や状況に応じて記憶想起をダイナミックに変えることができるんです。例えば「ブルー」という単語があります。グーグルなどのサーチエンジンもそうですが普通のデータベースで検索すると、単にブルーというキーワードを持ったデータだけが結果として出てきます。でも人間は交差点でブルーと聞くと信号の青を想起して「進め」、一人で部屋にいる時に聞くと「なんか寂しいな」と解釈することができるんです。同じキーワードでも人間は状況を判断して記憶想起することができるんですね。

革命者それまでのデータベースは「一つの言葉は一つの意味を持つ」という前提で作られていましたが、私はそれを「一つの言葉は無限の意味を持つ」という前提でできないかと考えました。状況や文脈が与えられてはじめて意味が確定するデータベースを作れないかと発想を変えてみたんです。このシステムを私は「意味の数学モデル」と名付けて1993年に最初の論文を発表しました。これが今に続く研究のベースとなっています。約60000語の全ての事象を約2,000語を使って説明しているロングマンという英英辞書があります。それらの2,000語で辞書内の全ての言葉を説明していて、まずそれを利用して約2,000次元のベクトル空間を作りだしました。その空間上に言葉や画像、音楽といったオブジェクトを配置するわけです。星が散りばめられている宇宙空間をイメージすると近いですね。その空間上で2つのオブジェクト(2つの星)を指定するとそれらの間の距離を計算できます。その距離によって関係性を判断して情報を選び出すことができるわけです。言葉以外に音楽や映像などについても、今までは得られなかった関係性を計算で求めることができるのです。

実社会との接点を見つけていく

革命者データベースという分野は基礎的なシステムを研究すれば、それで終わりというわけではありません。技術をどのように社会と結びつけていくかが非常に重要です。1996年、ちょうどそのようなことを強く意識していた時にSFCに研究の場を移すことになりました。SFCは様々の分野の研究室が実社会に近いところで密にコラボレーションする環境だったので、自分の持っている技術を実社会へ展開していこうとしていた私には非常に良いタイミングだと思いました。実際に研究室間での交流を頻繁に行うことができています。今は徳田英幸研究室のユビキタス技術、藁谷郁美研究室のドイツ語・文化研究と共同でキャンパスの色々な場所に教材をマッピングして、近くに行くとモバイルデバイスなどでドイツ語教材を入手できるような環境作りを進めています。また奥田敦研究室とはイスラム文化のコーランの空間をデータベース化するという試みを行っているところです。

データベースの可能性を拡げる

革命者学内だけでなく産官学共同研究も行っています。JR東日本と共同で鉄道空間での状況に合わせた情報配信技術の研究をしています。朝と昼では駅に行く人の状況や興味も違うはずです。今はその人達への情報配信は直感で決められている部分が大きく、効果的な配信ができてるとは言い難いんです。データベースを使用すると、どの時間帯・場所でどの情報が一番有効かが分かるので効果的な情報配信ができるようになります。このようなデジタルサイネージの研究も進めています。また、海外との交流も進めています。今までの国際交流というと言葉が基本で、会話ができる大人になって突然交流しなければなりませんでした。グローバルな社会では子供の頃から交流することが非常に重要ですが環境が整ってないんですね。今、言葉ではなく絵や音楽で交流できるシステム作りを進めています。両国の感性を共有したシステムを作り、例えばお互いに同じ「春」というテーマで絵や音楽を集め共有できるようにする。これなら言葉がなくても交流できますよね。この他にもデータベースの可能性を拡げれるような様々なプロジェクトを進めているところです。

知的な社会を作っていきたい

革命者現代社会は携帯やパソコンなどコミュニケーションの機能はかなり発達してきていますが、我々が深い知識を獲得して知的好奇心を持って生活できている社会かというと、まだまだ課題を抱えていると思います。携帯メールでコミュニケーションするのは好きだけれど、知識ベースにアクセスするところまでにはいってないんですね。データベース技術だけが知的というわけではないけれど、コミュニケーションだけでは知的な社会はできません。人間が深く考えるとか新しい事を発想するとか、そういうことをするための環境作りにデータベースは重要な役割を果たせると思っています。そのために今後もデータベースや知識ベースを社会に広めていくということを我々は目指していきます。理想はデータベース技術を使って、実世界の景色をガラッと変えてしまうくらいインパクトがある環境を作れたら面白いと思いますね。

清木 康(キヨキ ヤスシ)
KIYOKI, Yasushi

1978年、慶應義塾大学工学部電気工学科卒業後、同大学院工学研究科修士課程、博士課程修了。工学博士。1983年、日本電信電話公社武蔵野電気通信研究所入所、1984年、筑波大学電子・情報工学系講師、1988年、同助教授、その間、カリフォルニア大学アーバイン校、テキサス大学オースティン校(文部省在外研究員)を経て1996年、慶應義塾大学環境情報学部助教授に就任。1998年より現職。専門分野はマルチメディア・データベース、感性データベース、マルチデータベースシステム、意味的連想検索。主な著作・論文:Yasushi Kiyoki,Yukio Chen, A Semantic Spectrum Analyzer for Realizing Semantic Learning in a Semantic Search Space, Infromation Modeling and Knowledge Bases, IOS Press, Vol.XVII, pp.50-67, May 2006. 清木康、金子昌史、北川高嗣 "意味の数学モデルによる画像データベース探索方式とその学習機構," 電子情報通信学会論文誌、Vol. J79-D-II, No. 4, pp. 509-519, Apr. 1996.ほか

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(掲載日:2010/03/29)

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