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SFCの革命者(アーカイブ)
2008.12.18

環境のために楽しさを犠牲にしてはいけない。それが次世代の環境対策じゃないだろうか。

SFCの革命者

環境のために楽しさを犠牲にしてはいけない。それが次世代の環境対策じゃないだろうか。


清水 浩
環境情報学部教授

乗ればわかる。

革命者『百聞は一見に如かず』、ではなく『百見は一乗に如かず?!』
スーパー・エコカー、電気自動車『Eliica』は眺めているだけではその魅力の何分の一も知ることができない。開発プロジェクトのリーダー、環境情報学部の清水浩教授に「『Eliica』を一言で表すと…」と聞いてみると、冒頭の言葉が返ってきた。「電気自動車」というと、性能的にはせいぜいゴルフ場のカートぐらいだろうとしか思い浮かばない人々も多いのではないだろうか。しかしその観念はあっさり裏切られる。最高速度370キロは優に出る『Eliica』。本来400キロを想定して造られたそうだが、加速の小気味良さは想像をはるかに超えるのである。「途切れのない加速感が、こんなに気持ちよいのかと思いますよ」。その流動感あふれるフォームから、重力にわしづかみにされるような感じかと思いきや、ガソリン車にはない加速の心地よさが、例の『…一乗に如かず』という言葉に象徴される。「乗ればわかる…」未来はぐっと身近に迫ってきているのだ。「男の子は車が好きなもんなんですよ」誰もが子供のころ夢見た憧れの理想的な未来がここから拓くようなトキメキが、高性能電気自動車『Eliica』 にはある。

何より車が好き

革命者

「他の乗物では何が好きですか?」、すると返ってきた答えは「やはり自動車ですね」。ということは、清水教授にとって今が最も幸せな状況といえるのだろうか。とはいっても、ここに至るまでには30年の歳月を費やしたという。大学は工学部、自動車エンジニアになることを夢見ていた。ところがベビー・ブーム世代の清水教授が社会に出ようとしている頃は、交通事故と公害問題のため、今よりはるかに車社会に対する世間の風当たりが強い時代だった。自動車業界に身を置くことをためらった教授は「まず基礎から勉強を…」と応用物理の分野に進む。大学院では当時最先端だったレーザーの研究を、そして卒業後は環境庁の国立公害研究所(現・国立環境研究所)へ。レーザー光を用いて大気汚染を測定する装置の開発に携わった。開発は順調に進み、その上もの作りの醍醐味をも知ることになる。ガソリン車の宿命である大気汚染を測定する装置の開発が研究者としての「他の乗物では何が好きですか?」、すると返ってきた答えは「やはり自動車ですね」。ということは、清水教授にとって今が最も幸せな状況といえるのだろうか。とはいっても、ここに至るまでには30年の歳月を費やしたという。大学は工学部、自動車エンジニアになることを夢見ていた。ところがベビー・ブーム世代の清水教授が社会に出ようとしている頃は、交通事故と公害問題のため、今よりはるかに車社会に対する世間の風当たりが強い時代だった。自動車業界に身を置くことをためらった教授は「まず基礎から勉強を…」と応用物理の分野に進む。大学院では当時最先端だったレーザーの研究を、そして卒業後は環境庁の国立公害研究所(現・国立環境研究所)へ。レーザー光を用いて大気汚染を測定する装置の開発に携わった。開発は順調に進み、その上もの作りの醍醐味をも知ることになる。ガソリン車の宿命である大気汚染を測定する装置の開発が研究者としてのスタートだったとは、なんとも皮肉な巡り合わせだが、環境汚染の研究を続けていく中で頭から離れなかったのは「測定だけしていても改善はされない」という思いだった。そして遂に「電気自動車の開発」が自分自身にとっても、最も望ましいテーマなのだと確信する。単にCO2を排出しないから「環境にいい…」。いま私たちは気づき始めた。環境にいいことはだれもが理解している。しかし世の中の大方の見識はそこから進んでいなかった。むしろそれでいいと思われていたのかもしれない。しかし清水教授はいう。「ガソリン車以上でなければ、電気自動車に代わる意味がない。すべての工業開発は産業化してこそ成就する」。スタートだったとは、なんとも皮肉な巡り合わせだが、環境汚染の研究を続けていく中で頭から離れなかったのは「測定だけしていても改善はされない」という思いだった。そして遂に「電気自動車の開発」が自分自身にとっても、最も望ましいテーマなのだと確信する。単にCO2を排出しないから「環境にいい…」。いま私たちは気づき始めた。環境にいいことはだれもが理解している。しかし世の中の大方の見識はそこから進んでいなかった。むしろそれでいいと思われていたのかもしれない。しかし清水教授はいう。「ガソリン車以上でなければ、電気自動車に代わる意味がない。すべての工業開発は産業化してこそ成就する」。

あと5年…。もう5年…。

革命者電気自動車の開発が温暖化ストップに有効な対策になりえる。この思いが『Eliicaプロジェクト』を引っ張ってきた大きなパワーであり、『Eliica』という夢のようなエコ・カーを生み出すエネルギーだった。浮かんでくるアイデアや考えてきた技術開発は試行錯誤の末、次々に具現化されていく。やがて、それらは『Eliica』の血となり肉となっていった。実は5年でうまくいくはず!と思って始動した電気自動車の研究開発だったが、あと5年…もう5年…、気がつけば30年の歳月が流れていた。もっともこの開発途上の工程を、もの作りの悦びに変え満喫したのは言うまでもないが。「いつだって巧くいくと思っていた…」、まさにこのポジティブな発想こそが、成功への近道である。原理が変われば形が変わる、従来の固定概念から脱却し、限りなく省エネルギーな構造体をゼロから生み出した。日本でしかできない先端要素技術の開発があった。高エネルギーを蓄積できるリチウムイオン電池、インホイール・モーター、高性能インバーターなど数々のいわゆる21世紀型技術を巧みに使いこなすことに努めた。

革命者それらのすべてを搭載した『Eliica』。それでもまだ拡がる可能性の、ほんの導入部にすぎないのだと清水教授は謙遜する。どんなに素晴らしい発明、発見でも、そのほとんどが試作品以前の段階で消えるのが現実。大学発のベンチャーの大半がここで挫折してしまうそうだ。清水教授と研究チームは幸いなことに、『Eliica』という花を咲かせることに成功した。業界でいうところの『魔の川』は渡ったのだ。このプロジェクトは今後商品化に向けて踏み出す。実を結ばせなければならない。商品化する難しさを例えて『デスヴァレー』という。技術に信頼性、耐久性、安全性を付加するプロセスだ。これからこの死の谷が口を開けて構えているのだ。「端をソロソロと巧く渡っていきますよ…」と笑いながら清水教授。これを渡らなければ従来のガソリン車にとって変わることはできない。その先の行く手には『ダーウィンの海』に例えられる大量生産の難しさもある。車社会の将来を見すえれば、そこに明るい未来が確実に待っているのだから、今まで通り地道な研究開発を楽しみながら乗り越えてゆく自信はある。そのための土壌は整っていると自負しているからだ。

SFC…だから出来る。

革命者『Eliica』が誕生したバックグラウンド、「そこにSFCならではの土壌があったから…」といっても過言ではないかもしれない。一人の研究者が「社会をどう変えたいか…」と考えたとする。「そのためにはどんな車が必要か…」と展開していき、「車はどう変わっていかなければならないか…」と進展していく。しかも、そこで終わらない。「進化した車を、どうしたら普及させていけるだろうか…」とまで発展していける。連動して開発できるからこそ、可能性は無限大に拡がっていくのである。デザインからモーターなどの主要部品の開発、ビジネス、マーケティングと、まさにジグソーパズルの一つ一つのピースが埋まっていくように、大きな構想がかたち作られていく。「一つのキャンパスで、総合的なものの考え方が出来るのは、世界広しといえどもSFCだけ。だからあらゆる研究が可能になる…」と清水教授も絶賛する。最適な教育体系が背景にあるからこそ、より現実化していく電気自動車の普及も夢ではなくなったのである。近未来予測を容易にワクワクする何かに変えて、疾走する魅惑的な『Eliica』が私たちの生活を根底から変えていくぞと語りかけてくる。

清水 浩(シミズ ヒロシ)

HIROSHI SHIMIZU

1975年、東北大学大学院工学研究科博士課程単位取得退学。1976年、工学博士(東北大学)。国立公害研究所(現・国立環境研究所)入所。アメリカ・コロラド州立大学留学、地域計画研究室長、地域環境研究グループ総合研究官を経て、1997年、慶應義塾大学環境情報学部教授に就任。以来、電気自動車『Eliica』開発プロジェクト、技術統括リーダーとして携わり、現在は販売普及に向けてチームを率いる。専門は環境問題の解析及び対策技術の研究。主に電気自動車の開発、環境技術データベース開発に従事。特に電気自動車の研究開発においては国立環境研究所時代から着目、7台もの試作車開発の後、2004年、遂に『Eliica』の実現にこぎつけた。主な著書:『電気自動車のすべて』日刊工業新聞社/『地球を救うエコビジネス100のチャンス』にっかん書房/『近未来交通プラン』三一書房/『こうして生まれた高性能電気自動車ルシオール』日刊工業新聞社/『温暖化防止のために 一科学者からアル・ゴア氏への提言』ランダムハウス講談社/共著:『爆笑問題のニッポンの教養 教授が造ったスーパーカー 環境工学』講談社

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(掲載日:2008/12/18)

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