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SFCの現場
矢作尚久 研究会

2021.11.30/ヘルスケアシステムデザイン・アントレプレナーシップと経営

矢作尚久 研究会

SFCにおける活動の中心は「研究会」。教員と学生が共に考えながら先端的な研究活動を行っており、学生は実社会の問題に取り組むことによって高度な専門性を身につけます。

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矢作尚久 研究会の特色

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矢作研究会では、学生が好きなことをとことん突き詰めていき、その過程の中で本当にやりたいことを発見してくプロセスを大事にしています。しかしながらここでは、一つ裏命題が存在しています。私は好きなことをとことんやりなさいと表現したものの、これは「好きなことを嫌いになるまでやる」という意味でもあります。好きなことをとことんやっていくとどこかで必ず壁にぶち当たります。そこを乗り越えていき、なぜ自分がもともと好きだった事柄が嫌いになってしまったのだろうと自問自答することになります。行動していく中で当初は苦手意識を持っていたものが実はすごく好きで、もはやその域を超えて「これしかない」と思うことがあったり、実は大得意だったと気づいたりすることがあります。自分が得意ではないことに取り組むにはかなりの勇気が必要ですが、まずは好きなことにとことん打ち込み、壁にぶつかりながら何かを見つけ出すことで、緻密で正確に客観性を持って物事に取り組めるようになり、社会に出たときにプロとして活躍する基礎が出来ると考えています。
テーマとしては「アントレプレナーシップと経営」「ヘルスケアシステムデザイン」を掲げていますが、それにとらわれず、服飾デザインや絵画の価値分析、新型コロナの感染拡大の予測分析まで学生の研究は多岐に渡っています。
私は医師でもあるので、医学・医療の知識をもって、「人間が関わるあらゆるサービスやシステムを人間一人一人の脳と身体の状態に最適化すること」を目指しており、医学部ではなく、SFCだからこそできる教育・研究があると考えています。

学生に環境は提供しますが、基本的に自主性に任せており、学生主体で研究会が進行しています。グループワークのチーム分けに関して私から助言をすることもあります。

研究会のレベル設定はグローバルのトップ校大学院を基準としています。私は1年生から研究ができる点がSFCの一つの特徴であるし、すごく楽しいことだと思っています。基本、大学院のレベルに合わせて授業設計やディスカッションを行うことで、「好きなこと」を「好き」で終わらせず、壁を乗り越えて「プロ」になる機会を作りたいと思っています。

ユニークな研究や学生の例

私にとって何が面白いかというのは二系統あるのではないかと思います。一つは学生の発想が面白いもの、もう一つは取り組んでいく中で学生自身が自身の新しい一面に気づいてしまうもの、です。特に後者に関しては全員持っていなければいけない要素ですが、早くに自分の新しい一面に気づく学生もいます。例えば、お笑い芸人になろうと考えている学生がおり、彼は当初、自分の面白いと思うことが他の誰にも当てはまると考えていましたが、相方とのやりとりの中で面白いと感じるポイントが人によって違うということに気づき始めました。そのうちに彼の中に面白さとはなんだろうという疑問が湧き、笑いの【閾値】を卒論のテーマとしています。学生たちがどのようにして答えを見つけ出していくかということは非常に興味深いです。

また、オンラインでのやりとりの中で人間の存在をどのように表現するかということについて研究していた学生もいました。もともと彼自身のプログラミング技術が高く、その分野の発想に着眼していた点が面白かったです。座学で何かを教わりたいという学生は入ってこないし、やはり自分で何かやりたい、現時点でその何かが分からないとしても、何か思うことがあるか、モヤモヤしたものがある、という学生たちが研究会に残っているので、全てのプロジェクトに面白みを感じます。

研究分野におけるホットなニュース・話題との関連性

あえて「ない」と申し上げておきます。「ホットな話題」というのは、人間の感覚値や時間の経過に伴う変化によって決まってくるものです。例えばAIなど、現在のキャッチーなワードは私自身が2007年にはより高度に技術化して社会実装したモノがありましたが、当時はその分野の方々に実現不可能とされたにもかかわらず、それが今になって世間を賑わせています。要するに非専門の人間がもともと発見していた事が、世界では凡庸なことと差別化するパーツとして維持されているのです。また、今は正しいと評価されていることであっても状況が変われば否定されることもあります。特に医学と医療の先端研究に触れるとアートとしての感覚値とサイエンスとしてのデジタルの連続性が垣間見え、「感覚値と変化をどうとらえるか」という視点に行き着くとこれまで見えなかったことの多くのことが見えてくるので、あえて「ホットなニュース」と関連づける必要はないと考えています。

進路

コンサルや金融、物流、小売、製薬企業、医療機関など様々な就職先があります。行き先に関しては私自身が後押しをすることもあります。

矢作尚久 研究会の魅力  ― 学生の目線から ―

「ヘルスケアシステムデザイン」「アントレプレナーシップと経営」両研究会に所属されていた卒業生の有働峻介さん、川本章太さん、「アントレプレナーシップと経営」に所属されていた卒業生の中江彩さんに研究会の魅力について伺いました。

雰囲気や特徴

【ヘルスケアシステムデザイン】

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矢作研究会には、医療や、総じて「人」に関心を持つ学生が多く所属しています。過去には残薬問題の研究や、疲労度測定から可視化できない個人の能力の指標化など、共通して「人」に焦点をあてた研究が行われています。
また、他の研究会と掛け持ちをする学生が多い点が特徴で、私(川本さん)も村井合同研究会にも所属しており、医師が診療で用いている考え方を参考に、機械学習を用いたウイルスを識別する統計モデルに関する研究にも励んでいます。掛け持ちの学生が多いので、研究に関して多様な角度からアドバイスしてもらえるのも矢作研究会の特徴です。

雰囲気としては、学生に求めるレベルが極めて高く、先生は相手が学生だからと手を抜かず、指導してくださいます。特に夏季休暇の際には医学部で行われる定期試験を踏襲して、医学部が使用するテキストを用いた口頭試問が実施されることから、学生は阿鼻叫喚になります。
また先生ご自身が、判断ミスや手抜きが生命の危機に直結する小児医療に携わっていることから、研究会内では高い倫理観や妥協しない姿勢が求められています。研究に対して核心を突いたご指摘をいただくだけでなく、「人としてどうなのか」という人としての姿勢まで問われながら研究を進めていくので、論理思考や倫理観が育まれる研究会だと感じています。
ちなみに勉学と併せて、遊びも全力です。コロナ禍の前には春秋の年2回で運動会が催されたり、長期休暇には合宿やスキーに赴いたりなど、よく学びよく遊ぶ研究会です。

【アントレプレナーシップと経営】

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矢作研究会には、矢作さんの授業をきっかけに入った学生や、矢作さんが小児科医ということでヘルスケアに関心を持っている学生が多く、大学院生も所属しています。研究テーマは自由に設定できます。個人発表へのフィードバックとディスカッションを交互にしながら研究を進めています。
アントレプレナーシップは「起業家精神」といった文脈で使われることも多いと思いますが、矢作研究会では本来のアントレプレナーシップの意味合いに立返り、社会を切り開いていくための力を身につけるべく様々な課題に向き合っています。

矢作さんは、慶應義塾の精神である半学半教を大切にされており、私たち学生と対等な関係で議論をしてくださいます。時には厳しい指摘を受けることもありますが、学生同士も先輩後輩関係なく本気で議論し合い、日々、自らがアントレプレナーとして探求しています。矢作研究会は、自分の視点や意見を深めたり、納得するまで考え続けられたりする場だと思います。
イベントが多いのもこの研究会の魅力です。食事会やスキー合宿といったイベントは、学生同士の親交を深められる貴重な機会でした。縦の繋がりも重視されており、OB・OGの方々もこのようなイベントに積極的に参加してくださる印象があります。

得られるスキル、入ってよかったと思う瞬間

【ヘルスケアシステムデザイン】

研究会を通して、論理思考や倫理観などが育まれる印象です。卒業生はそれらを活かして商社やコンサルティングファームなど広い分野で活躍しています。また研究を通して培った医療への知見を元に、製薬企業に勤める人もいます。
さらに矢作研究会には、自分を「好き・嫌い」「できる・できない」の4象限で見つめることを求められたり、自分に合った研究やプロジェクトに励む文化があり、自己理解を深める機会が多いのも特徴です。故に自分の武器や、磨くべき武器が何かを俯瞰できる力も培ったと感じます。

矢作さんは親身かつ真剣に学生を指導してくださり、そこでいただいた色々な言葉が、今でも私(有働さん)を支え、襟を正してくれています。「これ以上人生で大変な経験はない」と言えるほどに厳しい体験ができ、培った力が今後どれだけ活かせるのか、非常に楽しみです。

【アントレプレナーシップと経営】

Yahagi_Graduation.jpeg研究会の中心はディスカッションのため、自分の主張をいかに相手に伝えられるかという論理的思考力が必要でした。また、単に相手を批判するのではなく客観的な目線や常に疑問を持ち続ける批判的思考力が身につけられました。研究会に所属している他の学生は自分と異なる点に疑問を感じ、それぞれが異なった研究テーマを設定しています。立場や価値観が異なる人と議論するからこそ、傾聴力を大切にして相手の考えを受け入れたり、理解したりしようと努力しました。プレゼンテーションの回数が多いことによっても、これらの能力が培われたと思います。

入ってよかったと思う瞬間は、尊敬する矢作さんや社会をより良くすることについて語り合える仲間と出会えたことです。矢作研究会は、私(中江さん)にとって10年後も、15年後も戻ってきたい場所です。学生時代に仲間と話し合った時間は、社会人になった今でも「頑張ろう」という意欲に繋がっています。

メッセージ

社会の先導者として、使命感を持って先端技術を熟知し高い倫理観の醸成を!

先端技術を正しく理解し、人が人として「幸せ」と感じ続けられることをメインテーマに据えると、医学の基礎知識は、一人一人に寄り添うあらゆる生活・サービスに応用可能です。これからの時代は、微細な変化をも捉える緻密なデータを活用した競争と感覚値から創造される価値共創になっていくでしょう。独立自尊の人生を歩んでいく学生の皆さんには、俯瞰した能力に留まらず多様性を受け入れられる多面的なアプローチと、個々人の強い志と哲学を持って取り組む研究を軸に展開していく次元の高い能力を要求されます。より豊かな人生のため未来を見据え次世代につなぐプロジェクトを共に創り出していきましょう。
矢作尚久 政策・メディア研究科准教授 教員プロフィール


"答え"は見つかりませんでしたが

SFCに入学すると、革新的な研究/事業に携わる方々と出会う中で、自分自身の目的や能力を自問する機会が多くあります。その最中、矢作研究会では原理原則に立ち返ることの大切さを学ばせていただきました。少し大袈裟かもしれませんが、「何のために生きているのか」から「何のために生かされているのか」への問いのアップデートが私にとって何よりの財産となっています。
様々な問い、そして高い志と倫理観を持って真摯に研究に向き合おうとする学生との出会いを先生方、先輩も楽しみにしていると思います。
(有働峻介さん)

class 矢作研 extends 慶應義塾

数年前になりますが、矢作さんに初めてお会いしたときの驚きを今でも強く覚えています。そして、その日から矢作さんが要求する物事の水準の高さを日々痛感し、自分が思い描く世界の基準も飛躍的に上がりました。そのため毎日が大変でしんどく辛いことは決して否定しませんが、世の中の役に立つ先端の研究をしながら、人として鍛えられている実感が大いにあります。恐らく、慶應義塾、SFCの先輩方もこんな日々を過ごされていたんだろうなと、自分もその一員だと感じられることが何よりの魅力かも知れません。
(川本章太さん)

10年後、20年後もまた帰ってきたいと思える場

SFC創設時から掲げられている"未来からの留学生"というコンセプトは、創設30年を迎えた今でも浸透しています。各フィールドの最先端を走る教授陣と未来を想像しながら学び、仲間達とワクワクするような社会を創造することができます。ここで得られた知識だけでなく、たくさん悩んだことや仲間たちと徹夜で議論したことは一生の宝です。卒業後一度SFCを離れますが、社会に出てもう少しパワーアップした際には、また仲間と一緒に社会を変えるような"グルワ"に取り組みたいです。
(中江彩さん)

取材・制作協力:桑原武夫研究会MC班