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SFCの現場
西川葉澄 研究会

2021.09.08/外国語学習のための『学びのコミュニティ』作りと複言語主義・
コピーとオリジナリティ

西川葉澄 研究会

SFCにおける活動の中心は「研究会」。教員と学生が共に考えながら先端的な研究活動を行っており、学生は実社会の問題に取り組むことによって高度な専門性を身につけます。

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西川葉澄 研究会の特色

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西川研究会では「外国語学習のための『学びのコミュニティ』作りと複言語主義」と「コピーとオリジナリティ」の2つの研究会を開講しています。どちらも輪読を中心とした授業構成に加えて、中間発表や最終発表などを実施する形になります。
輪読の文献は用語や基礎知識が学べるものを選定します。もちろん二つの研究会では参照する文献は異なります。
外国語学習の研究会では、言語学習の課題であるモチベーションの維持・向上の問題を解決する可能性を持つ「学びのコミュニティ」作りには、どのようなことが重要かを考察・分析し、最終的には「言語の学びのコミュニティ」を実際に実現することを目指します。また、複言語主義に基づく相互文化的理解を目指すこれからの社会にふさわしい言語学習の基礎となる考え方として「相互文化的能力」を養うことの重要性を学ぶ文献を、長い時間かけて、また場合によっては繰り返し輪読し深いインプットをします。
「コピーとオリジナリティ」の研究会では、例えばフランスなら古典主義の時代までの、芸術とは手本となる巨匠の作品の「模倣」を通してギリシャ・ローマ的な完璧な美へと到達することこそが芸術の価値であるという芸術観から、19世紀の初め頃にあらわれたロマン主義により、古典主義的な模倣ではなく、むしろ独自性や新しさが評価されるようになったという変化があり、その価値観が現代に継承されています。また、そうした独自性の追求を模倣的な行為(剽窃、引用、オマージュ等)によって遂行するという逆説的な試みも多くなされてきました。
その時代的な変遷を踏まえ、「コピーとオリジナリティ」をめぐる問題から現代の社会・文化を考察します。主にフランス語で書かれた文献の翻訳を用いて輪読とディスカッションをしますが、そうすることで専門用語となる知識をインプットし、一人では読解が難しい難解な文章を、ディスカッションを通して、現代に通じる具体的な現象とリンクさせながら理解を深めることができればと考えています。
両研究会共にフランス語を読んだことのない学生もいるので、日本語訳されたものを読みます。フランス語の知識を必修とすることなく門戸を開いている理由として、多様な学生が触れ合うことで、様々な知見を得られる場になればと思います。

ユニークな研究や学生の例

【外国語学習のための『学びのコミュニティ』作りと複言語主義】
SFCでフランス語を学んでいた学生で、否定表現を用いて褒めるというフランス語独特の表現について卒論を書いた人がいました。彼女はそうした表現を授業で学習し、知識としては理解していたのに、留学中に実際にフランスで生活する中でそうした表現を使うことに違和感を感じ、それについて現地の人と話し合ったり、日常で使用する時間と共に「腑に落ちた」そうです。そのような経験から言語を教室内で学ぶ行為と、実際に日常生活で使う行為の乖離に気づき、卒業論文にまとめました。とても興味深いものでした。

また、音楽によって外国語学習のモチベーションをあげようとする研究もありました。自らインドネシアンポップスのプレイリストを毎週用意して、被験者に毎日インドネシア語の歌を聞いてもらう中で、彼らの言語学習に対するモチベーションの推移をインタビューやジャーナルによってたどる調査をしました。学習者の意識の変容がスリリングで非常に面白いと感じました。

【コピーとオリジナリティ】
江戸落語から現代落語に至る、古典落語のレパートリーが現代化されていく変遷について扱っていた学生が印象的でした。落語は江戸時代から現在まで同じ話をレパートリーとして語っていますが、この学生は平成落語というものに着目し、江戸時代の粋や人情といった趣きを伝えつつも従来の落語から話の内容が現代の聴衆に合わせてアップデートされていると気づきました。例えば古典落語では「男性の立場を立てる女性こそが<良い女>である」という美意識に沿った物語が語られるものがありますが、これを現代でそのまま演目にすると、現代の聴衆には男尊女卑的だとして反発されてしまいます。そのため平成落語では話の要点は保持しつつも、その一部をマイナーチェンジして現代の人たちの価値観に合わせたりしたとのことでした。大衆演芸の古典的レパートリーが時代の変遷に合わせて翻案されることに着目した興味深い卒論になりました。

他には、ヒップホップのサンプリングや二次創作についてなど、多岐にわたって興味深い研究が行われています。

研究分野におけるホットなニュース・話題との関連性

近年、インターネットやSNSの発達により、情報発信をするためのツールや書き手そのものが増えるなど、社会全体が「発信すること」に迫られている印象があります。しかし、その多くは、例えば「まとめサイト」に代表されるように、同じ情報がコピー&ペーストされていたり、またインスタグラムでは何かを手本としたかのように似たような写真が出回っていたりします。今の時代の人々が、発信によって独自性を求めているのか、あるいは同質的なものを求めているのか、気になる現象だと思います。

私が研究している19世紀のフランスの詩人(ロートレアモン)の話になりますが、彼の生きた約150年前の価値観は、独自性を強く追求するものでした。そうした時代において、今日ここにあるものや流行っていることを扱うのではすでに遅すぎるので、未来に評価されることを目指し、明日を先取りするような作品で文学的革命を起こそうとします。彼はその方法に「剽窃」を選び、「新しい詩」と称して他人の作品を意図的に盗用し、自分の文章に挿入したり、パスカルなど誰もが知っている有名な作家の警句的文章を剽窃した上で、否定文は肯定文に変えるなど機械的な書き換えを施しました。独自性が求められる時代に、否定された「模倣」を剽窃の形で用い、価値観を逆転させたことに面白みを感じています。過去の作品を引用することで独自性を表現する手法の嚆矢として有名ですが、21世紀でもなお現代性と関連するテーマなのではないかと思います。

進路

それぞれの研究内容が就職に反映されることは多いですね。広告の変遷や独自性を研究していた学生は広告業界に就職しましたし、二次創作の中のキャラクターデザインを研究していた学生は大手グローバルエンターテイメント企業に就職しました。個人の好みや個性がそのまま就職先に反映されているのを見るのはうれしいです。そのほかにも、大学院に進学した学生もいますね。彼は、フランスの大学に学部留学した後、そのまま現地の大学院に入学し、心理学を勉強しているようです。

西川葉澄 研究会の魅力  ― 学生の目線から ―

「外国語学習のための『学びのコミュニティ』作りと複言語主義」に所属されている環境情報学部4年加藤真那さん、「コピーとオリジナリティ」に所属されている総合政策学部4年長島朱音さんに研究会の魅力について伺いました。

雰囲気や特徴

【外国語学習のための『学びのコミュニティ』作りと複言語主義】

1_re_Nishikawa Lab.pngこの研究会では、外国語教育や異文化教育について学生一人ひとりが個人で研究を行っています。私(加藤さん)は留学経験があり異文化に興味を持っていたため、この研究会を選びました。研究会全体でも海外在住経験のある学生が多く、他には西川先生のフランス語の授業を履修していた学生が集まっています。もちろん、言語未学習の学生や海外経験がない学生もいます。
海外へ留学をする履修生もおり、交換留学や休学して私費留学(単位認定)など手段は様々で、留学後に研究会に戻ってきやすい雰囲気なのも良いところだと感じます。

個人研究がメインですが、研究分野への知識定着のために輪読も行っています。各パート毎に担当が振り分けられ、グループ毎に書籍の内容について発表をし、それを踏まえたディスカッションも行なっています。西川先生がアットホームな環境づくりをしてくださるので、海外経験等バックグラウンドが豊富な学生とも交流を図りながらお互いの理解を深められます。
半年に1度、同じ「外国語教育」を専門分野とする國枝孝弘研究会との合同研究会を行っており、大学院生との交流の機会にもなっています。

【コピーとオリジナリティ】
B_re_Nishikawa LabC&O.pngコピーとオリジナリティをめぐる問題を学びながら、現代の社会・文化についても考察しています。コピーとオリジナリティという問題の多くは芸術分野に関わるため、音楽や建築などの芸術分野に関心がある学生が多い印象です。研究テーマは多様で、定番としては音楽や建築、最近増えたテーマだと漫画といった現代の文化が挙げられます。
コピーとオリジナリティに関連していれば、興味のあることや好きなことを追究できるため、自由な雰囲気がある研究会です。

研究会の進行は先生が主導しており、輪読の文献も先生が選定してくださいます。個人研究においても、必要なことや知見をフィードバックしてくださいますが、その一方で、学生自ら課題を発見し、自分で取り組む姿勢を尊重してくださり、学生自身の力を信頼してくれていると感じます。

得られるスキル、入ってよかったと思う瞬間

【外国語学習のための『学びのコミュニティ』作りと複言語主義】
「異文化理解力」、「外国語学習方法の知識」、「異文化や外国語について深く考える力」の3つを得られました。
例えば、研究会では「ダイバーシティ」のように日常的に使われるようになった言葉一つに対しても、詳しい定義や意味について考える機会があります。また、このような抽象度の高い言葉を定義が曖昧なまま使用していると、先生が指摘してくださいます。
もし西川研究会に入っていなかったら、異文化理解について詳しく知る機会や生活の中で考えることはなかったと思います。ディスカッションなどを通して自然と外国語の教育方法を学べること、また学生同士の話から訪れたことのない国の文化や言語に関する話を聞けることは、非常に魅力的だと感じています。

【コピーとオリジナリティ】
学生それぞれの研究テーマが異なるので、「そのような視点があるのか」と多様な視点を身に付けられました。二次創作の研究をしていた卒業生は、漫画やアニメの文化をコンテンツ消費と掛けていて、コピーとオリジナリティの分野からそこまで広げられるかと感銘を受けました。
輪読では、かなり難しい文献(フランス語で書かれたものの日本語訳)を読むので、文献を読み解く力が鍛えられました。先生が、フランスやコピーとオリジナリティの知識を交えて説明してくださるので、先生あっての学びだと感じますね。

好きなことを追究できる点は本当に入って良かったと思います。研究会メンバーの好きなことの話を聞けるのも興味深いですし、コピーとオリジナリティというテーマを超えて、多様な人と出会いながら考えを深められることは面白いです。

メッセージ

言語による自己変容を楽しもう

多様性に満ちた現代社会で生きていくためには、自分と異なる文化や価値観を持つ他者と互いに尊重し合える能力が必要になるでしょう。ただしそれは容易ではありません。言うは易く行うは難しなのです。そこで人生の若い時期に他者の言語を学ぶことをお勧めします。いつもの世界から一歩外に出て、他者の言語や文化を知り、理解しようとすることは、自分の可能性を更新する簡単な方法の一つです。また同時に、逆説的ですが自分の言語や文化への理解が深まります。そうした意味で、ぜひ慣れ親しんだ日本語や英語以外の新しい言語に挑戦して欲しいと思います。
西川葉澄 総合政策学部専任講師 教員プロフィール

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◎SFC 言語コミュニケーション科目

SFCでは学部を問わず全員が必ず言語コミュニケーション科目を履修し、多様な言語を学習することができます。SFC生が研究を行う上で、誰もが必要とする基礎として、体系化されたコースが用意されています。


新しい可能性を見つけられるキャンパス

SFCでは様々な価値観に触れることができます。幅広いバックグラウンドを持った個性的な学生たちが集まっているため、1人では思いつくことができなかった考えを身につけられ、いつの間にか自分の視野が広がっています。他キャンパスにはない独特の雰囲気を醸し出す緑に囲まれたキャンパスや最先端の設備は自分の可能性を広げるのにぴったりの環境です。この4年間、無意識のうちに、キャンパスが居心地よく、落ち着くようになっていました。
(加藤真那さん)

「好き」を探求する学び舎

この研究会に集まる学生たちの強みは、自分の好きなこと、やりたいことを貫く姿勢です。それぞれがユニークなテーマを持ち、互いに刺激をもらいながら研究を進めています。取り組んでいることは全く違うけれど、「好き」に対する熱量が同じ人たちと過ごせる環境は心強いです。これはSFC全体にもいえることで、魅力ある学び舎だと日々感じます。
SFCでは自ら行動し続ければ、その想いを支えてくれる環境や仲間との出会いが必ずあります。ここで夢への第一歩を踏み出すことができてよかったと思っています。
長島朱音さん)

取材・制作協力:桑原武夫研究会MC班