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SFCの現場
2021.05.20

水野大二郎 特別招聘教授 「そとからみると」

編集 IMG_8421.jpg政策・メディア研究科 特別招聘教授 水野 大二郎
京都工芸繊維大学KYOTO Design Lab特任教授
デザインリサーチャー


担当科目:
デザインリサーチ (GIGA/GG/GI)(秋学期)
アカデミックプロジェクト モバイル・メソッド(セオリー)(春・秋学期)
アカデミックプロジェクト モバイル・メソッド(プラクティス)(春・秋学期)


2012年4月、私は慶應義塾大学環境情報学部の専任講師としてSFCに着任した。それから7年、SFCでは大学院政策・メディア研究科のXDesignプログラムの教員や学生とともに多くの時間を過ごした。着任早々、田中浩也さんらとゼータ館に研究スペースを確保し、深夜まで学生や教員らと教育研究活動を展開した。田中さんと、(今は東京大学に転籍した)筧康明さんと3人で同じ部屋をシェアしていたため、研究会外の学生らも教員の話を聞いたり、学生間での意見交換やコラボレーション、サブゼミを開催する姿なども見られた。私は研究資料を誰でも閲覧可能にしていつでも自由に学べる状況を整備するなど、この状況をおおいに楽しんだ。

部屋は機材と試作物で雑多な状況だったが、同じゼータ館2Fの三次仁さんたちAUTO-IDラボの部屋もほぼ同じ雰囲気だったので、特に遠慮することもなかった。朝来ると、どこかの研究会の残留者が研究室で寝ていた。ものづくりの基礎を知らない無謀な学生が、カーペットの上でヤスリがけや3Dプリンタの細かなサポート材を取っていたりしていた。だから、清掃業者泣かせの部屋だったかもしれない。ゼータ館全体にはどこかしらサークル棟のような雑多感があったため、いつもキャンパスの周回道路の中に入ると「藤沢市港区」に来たな、という感覚を覚えた。

清濁併せ吞み、学生と教員がジャンルを問わず、自由なテーマで活動できるSFCの空間。しかし、そこを2019年3月に家族の事情でどうしても辞めざるを得なくなった。だが、2020年になって特別招聘教授としてSFCに再び着任させていただくことになった。COVID-19の感染状況が思わしくなく、授業はオンライン化していた時期だ。

一度SFCのそとにでてみると、それはそれは特殊な環境だったことを再認識する。教員間のリスペクト、学生との距離、教育研究環境、教育プログラムなど、独特な教育研究の文化がSFCには確かにある。自由に学ぶことができるため、楽単だけとって、適当に研究会の活動をこなして卒業する人もいることは否めない。人生大学だけではないのだから、それ自体は否定しない。一方で「ガチ勢」と呼ばれる人もいる。ガチ勢の面白さは、従順ならざる者であることだ。彼らと未知の課題に挑戦するのは知的興奮を覚える、濃密で楽しい時間であった。従順ならざる者には、「圧倒的な知的好奇心に覆われた生き生きした人」と、「強い批判的精神を持つ目が座った人」などがいるように感じるが、いずれの人も自立した思考をもつ。だから彼らと共に考えることで、多くの学びを私は得た。だが、自立した思考をもつ人としての「学生」をSFCの外で見かけるのは殊の外難しかったのだ、と気づくのは、SFCを離れてからしばらく経ってからであった。従順であること、明確に定義できる課題に挑戦することが重要な局面もあるが、それだけでは未知の課題に取り組む姿勢をもつことが困難となる。知的好奇心や批判的精神は、自由な学びの空間によって支えられていたことを気付かされた。

一方、2020年はキャンパスは入構禁止措置が出ていたり、そもそも今住んでいる京都から遠隔参加しているため、SFCに舞い戻ったはいいが、そとからしかみえない状況であった。さてどうしたものか、と思いつつ加藤文俊さん石川初さんらと授業を運営していたが、3Dスキャナで遠隔学習の場である家を撮影し、Clusterにアップロードしてオンライン上で自らの学習環境の状況を共有する学生らが現れた。そとからでも仮想的空間上なら、なかをみせることができる。オフラインで出会うことは困難かもしれないが、オンラインでの学びを最大限活用することはできる。他愛もない試みだったのかもしれないが、いえのなかをそとにみせることを介して、オンライン学習環境下にあって学生らが苦心している状況においても、従順ならざる者としての姿勢を感じ取れたことは嬉しい出来事であった。

COVID-19の感染状況は依然として深刻なものであり、引き続きオンライン学習環境を推進せざるをえない状況は続くことが予想される。自由な学びの環境の全てをオンライン化することは容易ではない。学習環境は相互作用に根ざしたものであり、その全てを教育機関でデザインすることは、世界中のどんな教育機関でも難しい。少なくとも私がゼータ館で体験したことは、FortniteやHFFなどオンラインゲーム環境内における「ゲームの進行と直接関係のないユーザ間の相互作用」のようなものではないか、と感じている。従順ならざる者としての学生とともに、教育プログラムのそとにはみでる学びをSFCがどうすくい取り、あらたな大学像を示すことができるのか、大変興味がある。日本における物理的余剰空間としての過疎地域や海上の戦術的利用、仮想的空間としてのミラーワールドをつくり、アバターが身体を代替するなど、可能性はまだまだあるはずだ。学生や教員が自由に学べる環境そのものを実験し、つくることができる大学は少ない。SFCの教育研究の文化における自由が新たな展開を見せることを楽しみにしつつ、自らも実験を引き続きしていきたいと考えている。

水野 大二郎 www.daijirom.com

デザインリサーチャー/慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授 / 京都工芸繊維大学KYOTO design lab特任教授

2008年Royal College of Art ファッションデザイン博士課程後期修了、芸術博士(ファッションデザイン)。京都大学デザインスクール特任講師、慶應義塾大学環境情報学部准教授を経て現職。デザインと社会を架橋する多様なプロジェクトの企画・運営に携わる。編著にファッション批評誌『vanitas』(アダチプレス)、共著書に『インクルーシブデザイン』(学芸出版社)、『Fashion design for living』(Routledge)、共監訳書に『クリティカルデザインとは何か』(BNN新社)など。大橋香奈との共作『Transition』が2019年、International Documentary Filmfestival in Amsterdam(IDFA)ショートドキュメンタリー映画部門に入選。