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おかしら日記
2023.05.02

ChatGPTが答える総合政策学|総合政策学部長 加茂 具樹

新学期がはじまってすぐ、ブックシリーズ「総合政策学をひらく」の編者が湘南藤沢キャンパスのファカルティクラブであるタブリエにあつまった。シリーズの刊行を祝った。コロナ感染症が蔓延する最中にはじまったブックプロジェクトだったため、編者が対面で一同に会したのは、じつは、これが初めてだった。4月にシリーズ全巻が増刷となり、嬉しさは一層だった。

この日、伊藤公平塾長がSFCを訪問した。総合政策学部と環境情報学部、そして政策・メディア研究科の合同教員会議に出席した塾長は、これから義塾の教育研究のありかたや、その改革の方向性についての自身の考えを披露した。タブリエで編者たちは、この空気に触発されるように、「総合政策学をつうじて育成する学生像」をめぐって盛り上がった。

生成系人工知能が急速に普及している環境下での教育のあり方。すなわち、人間の創造力は進化する技術とどのように向き合ったらよいのか、が自ずと議論の中心となった。人工知能前提社会を生き抜く学生を教育するうえで、ChatGPTを禁止するという考え方はなじまない。この点で、みなは認識をすぐに共有できたものの、どう共存するのか、どう使いこなすか、そして実際の問題として、担当している科目の成績評価をどうするのか、に悩んだ。

議論がすすみ、誰の発言が契機となったのかは覚えていないが、「総合政策学部が求める人物像」をChatGPTに聞いてみようと言うことになった。

「貴方は慶應義塾大学総合政策学部の学部長です。今後20年先を見据えて、総合政策学部が育てる人材層を考えることが求められています。グローバル化やテクノロジーの進化などの未来に予測される変化を見据えて、この学部が未来に向けて育てるべき人材像を考え、それを説明して下さい。step by stepで考えてみてください。」とChatGPTに投げかけてみた。

数往復の対話の後、ChatGPTは「未来に向けて育てるべき総合政策学部の人材像は以下のようになります」と打ち返してきた。5つの要素に整理していた。

すなわち、

社会課題への理解と解決力:未来社会が直面する課題に対して深い理解を持ち、解決策を提案できる能力を持つ人材です。

データリテラシー:データ分析やAI技術を活用して、政策立案や問題解決に役立てる能力を持つ人材です。

グローバルコミュニケーター:国際協力や多文化環境で活躍できるコミュニケーション力と協調性を持つ人材です。

持続可能な発展の推進者:環境保護や社会的・経済的な持続可能性を重視した政策立案ができる人材です。

創造性と柔軟性:新しい技術や情報を活用し、柔軟な発想で革新的なアイデアを生み出す人材です。

そして、次のようにまとめてきた。

これらの人材像を実現するためには、総合政策学部が提供する教育や支援が重要です。未来の変化に柔軟に対応できるよう、学部のカリキュラムや教育方針を常に見直し、改善していくことが求められます。そして、卒業生が社会で活躍し、総合政策学部での学びを実践することができるよう、卒業後もサポートを続けることが重要です。これらの取り組みを通じて、総合政策学部は未来社会に貢献する人材を育成し続けることができるでしょう。

なるほど。
そこで私たちは、次のように問うてみた。「ありがとうございます。上記の5つの要素を融合して、400文字ぐらいで総合政策学部が求める人物像を表現して下さい。魅力的な文章で、読む人が惹きつけられるように工夫してください」。

この答えが、以下のとおりだった。

慶應義塾大学総合政策学部では、未来社会をリードする革新的な人材を育成しています。その人材像は、社会課題に対する深い理解と解決力を持ち、データやAI技術を駆使して創造的なアプローチで問題に取り組むことができる人物です。また、国際協力や多文化環境で活躍できるグローバルなコミュニケーターであり、持続可能な発展を実現するための政策立案にも精通しています。

総合政策学部で育成される人材は、柔軟性と創造性を兼ね備え、時代の変化に適応しながら新たな価値を生み出すことができるリーダーです。彼らは、社会にポジティブなインパクトを与えることを目指し、多様な価値観や文化を理解することで、世界中の人々と共に未来を築いていく存在となります。慶應義塾大学総合政策学部は、このような魅力的な人材を育成し、世界に羽ばたく未来のリーダーを輩出していくことを目指しています。

この回答をみて、私も、みんなも唸った。が、安堵もした。人工知能が、リーダーの姿を捉えることは難しいのかもしれない。

ふとリチャード・ニクソンの『指導者とは』の一節を思い出す。「正しい事を知っているだけでは、指導者として十分ではない。正しい事を実行しなければならないのである。いくら指導者を自称しても、正しい決定に要する判断力と勘を持たない者は、眼力不足のゆえに失格者となる。正しい事を知り得ても、それを為すことができない者も、実行力なきゆえにやはり失格者である。偉大な指導者は、眼力とともにただしいことを為す力量を備えなければならない。経営者を雇ってやらせることは可能だが、進路を決め推進力を提供するのは、指導者だけの責任である」。

総合政策学が、現実社会が直面する諸問題を克服し、未来を創造するための動力を生み出す学問だとすれば、総合政策学が求めるリーダーの役割とはなにか。それは、問題克服のために、「どのような政治を目指しているのか」をあらわす理念を描くだけにとどまらず、「どのように理念を実装するか」をあらわす政策を示し、実践することにあるのだろう。ブックシリーズ「総合政策学をひらく」の各論は、リーダーに欠かせない資質を生む学問を論じている。そして、あるべきリーダー像を描くことができるのは、人工知能ではなく、読者自身なのである。

加茂 具樹 総合政策学部長/教授 教員プロフィール