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おかしら日記
2022.02.01

「地域の縁側」と看護教育|看護医療学部長補佐 永田 智子

看護医療学部学部長補佐の永田です。今回はじめて「おかしら日記」に投稿することになりました。どうぞよろしくお願いいたします。

私の専門領域「在宅看護学」では、病気や障害を抱える方が、自分の望む場所で自分らしく暮らしていけることを目指し、そのための看護実践の方法論を、個人・家族への看護提供、ケアシステム構築、制度設計等を様々な視点で検討しています。中でも医療機関と在宅との狭間である入退院時や外来での支援方策が私の研究テーマで、普段は主に訪問看護ステーションや病院の退院支援部門の方等と仕事をしています。

そんな私ですが、最近、社会福祉協議会の看護師さんに案内していただいて、藤沢市内のあちこちにある「地域の縁側」を訪ねています。藤沢市のホームページによれば「地域の縁側」とは「住民同士のつながりや支えあいを大切にしながら、人の和を広げ、誰もがいきいきと健やかに暮らせるまちづくりを目的に、多様な地域住民が気軽に立ち寄れる居場所」であり、現在30数か所が登録されています。SFCの先生方や学生さんが活動に関わっている拠点も複数あり、ご存じの方も多いでしょう。SFCから徒歩圏内にある地域の縁側の1つ「もんの木の家」には以前からお邪魔しており、コロナ禍以降はカラオケなどができなくなったということで、健康講座など活動のお手伝いもさせていただいています。

最近になって、他の「地域の縁側」にもお邪魔している直接のきっかけは、看護学の教育内容の変更です。看護職の国家試験受験資格を得るための教育内容を定めた「保健師助産師看護師学校養成所指定規則」において、看護師教育の科目である「在宅看護論」が、この春から「地域・在宅看護論」に変わります。医療機関の機能分化と在宅療養の推進が加速する中、看護基礎教育の早い段階で、地域の多様な人々の暮らしについて理解を深める必要性が高まったためです。
本学においては、看護師のほかに保健師と助産師の免許教育も学部教育の中で実施しており、保健師教育の中の「地域看護論」等は全員必修となっていて、これらの内容はそこで触れられていましたが、今回の指定規則改定を受け、更に1年次に「地域包括ケア入門」という必修演習科目を立てて、「地域・在宅看護論」に関する内容を体験的に学ぶこととしました。現在、地域看護学・老年看護学の先生方と一緒に具体案を練っているところですが、1年生が秋学期の初めに、藤沢近辺の様々な場に1日伺ってそこでの活動に参加し、地域に居住する様々な年代・健康度の方々と直接触れ合って、健康や生活、看護について学びを深めることを目指しています。具体的な場としては、シニア世代による様々な集まりや障がいを持つ方の通所施設などがありますが(現在調整中につき、具体名は伏せます)、「地域の縁側」もその場の候補として、現在調整しているという次第です。

1月末現在では「もんの木」を含めて9か所しか回れていませんが、市の担当者の方とも話す中で、「地域の縁側」の多様さに触れ、その可能性と難しさを感じています。「地域の縁側」は個人の一軒家や離れ、団地の集会所、商店街の中にある店舗の一角などで実施され、開催頻度は週1~5回と様々です。高齢者を主な対象とするところが多いものの、障がいを持つ方や子どもたちの居場所になっているところもあります。実際の運営は社協の方や地域住民のボランティアの方が担っています。市からは開催実績や参加人数などに応じた費用が支払われ、目的に応じた公的な役割を果たせるよう様々な助言が行われているそうですが、いわば「公的な機能を持つ互助組織」のような位置づけであることから、その立ち位置については様々な葛藤があるという話を伺いました。
場に集まる人々の「居心地の良さ」と地域全体にとっての「公共性」の両立は、このようなコミュニティスペースにおいて常に課題となる点かと思います。また、コロナ禍により緊急事態宣言の期間中は中止、その他の期間も会食やカラオケなどの活動ができないことから内容の見直しが必要となり、感染への懸念もあって足が遠のいた人も少なくありません。コロナ禍による外出機会の減少が高齢者のフレイルに繋がったという報告は各地で行われていますが、縁側事業の参加者にも同じような状況が生じていると考えられます。さらに運営側には、地域の居場所づくりやそこでの人々の繋がりの重要性を信じて活動してきたのに、コロナ禍によってそれが否定されたように感じ、活動の意味を見失ってしまったという声もあったそうです。第6波により現在また影響を受け始めていますが、いったん活動を中断してしまうと運営側にとっても参加者側にとってもダメージが大きいということで、これまで繋いできた知恵をフル活用して、何とか開催を継続している縁側が多いとのことでした。感染対策と地域活動の両立という点では、看護学も役割を果たす必要があると感じています。

このような課題はあるものの、ソトとウチとの境目である縁側というコンセプトならではの「外に開かれた」「居場所」という性質、またそこで結ばれる「縁」は、地域の財産と言えるでしょう。年代や健康度を問わず、そこに暮らす人々すべてを対象として、暮らしやすい社会を作っていくために、看護が果たす役割を考えていくうえで、「地域の縁側」は格好の学びの場であり、今後ここに「大学」や「教員」「学生」が更に色濃く交わることで、何か新しいものが生まれるかもしれないという期待もあります。まずはSFCならではの看護教育として、「地域の縁側」を含む「地域包括ケア入門」をどのように展開していくか、これから更に検討を進めていきますので、皆様からも是非ご助言などいただけたら幸いです。

永田 智子 看護医療学部長補佐/教員プロフィール