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おかしら日記
2020.08.12

学部長のオンライン授業はどう評価されたのか?|環境情報学部長 脇田 玲

春学期の授業は完全オンラインで実施された。教職員は一丸となってこの危機と向き合い、多くの学生は不慣れな状況を理解し応援してくれた。みんな、全力で戦った春学期だった。

一方で、学部長として「SFCの教員は最高の授業をする」と発言したこともあり、春学期のSFCのオンライン授業の評価がいかなるものだったのか、ある程度開示する必要性を感じている。そこで、SFC授業評価の一事例として、学部長の講義は学生にどう評価されたのか、ここに開示することにした(飛び込み隊長)。

環境情報学部長は新入生向けの必修科目「環境情報学」を担当することになっている。この科目はSFCがカバーする多様な研究領域を外観し、今後の学びの補助線となることを目指して実施されている。つまりは、学生にモチベーションを与えることが一番の目的だ。毎回、SFCの多様な分野の教員にゲスト参加してもらい、一緒に授業を構築するスタイルだ。

以下の細長い画像が「環境情報学」の授業評価の結果。

図1:環境情報学の学期末授業評価の結果

脇田先生0812図2.png

私がもっとも意識したのは、学生にとって最も学びやすい環境を提供することだった。
履修者が700名の講義では、ZoomもWebExも一方通行になってしまう。ネットワーク環境の不具合も多くなる。
何よりも、教員も学生も操作に不慣れだ。
安定した通信、使い慣れたユーザインターフェイス、チャットによるインタラクティブ性の確保を担保するためにはYoutube Liveしかなかった。

もちろん、教員側の負担は大きく、配信のためのデバイスやアプリケーションの準備、配信コンテンツの作り込みが求められた。私は45歳にしてユーチューバーの仲間入りをすることになったのだ(とほほ)。ゼロから配信環境の勉強をして、ハードウェアの購入と試行錯誤を積み重ねていく中で、ゲーム配信用のハードウェアがもっとも適していることを知り、人柱的に様々なデバイスを購入してはテストを重ねた。授業をサポートしてくれる学生(TAとSA)も頑張ってくれた。毎回の授業のオープニングに流すムービー(授業のワクワク感は超重要)、授業ロゴ、スライド作成の補佐など、積極的に作業を買って出てくれた。オープニングムービーの製作ではSFCのドローンサークルKARTが協力してくれた。

学生のための環境という視点では、時間割に縛られない学びを実現することも意識した。学生が、オンデマンド(ムービーをダウンロードして好きな時間に見る)とライブ配信(決まった時間に配信し、教員や履修者同士のコミュニケーションを行う)の好きな方を選べるようにした。

ゲスト教員には、授業の数日前までに研究分野の面白さをコンパクトにまとめたムービーを用意してもらった。履修者には事前にムービーを見てもらい、対話や質問を求める場合は、時間割上の授業時限にYoutube Liveの配信に参加する。この配信内容はYoutubeのサイトに自動でアーカイブされるので、時間割に縛られたくない学生は後からゆっくり配信映像とチャットのやりとりを追体験することができる。

授業当日は、ゲスト教員と私がZoomで対話し、それをYoutube Liveに接続することで、オープンな環境をつくった。学生に事前にムービーを見てもらっておくことで、ライブ配信の時間は分野横断的な話題を展開することができたし、YoutubeのUI画面はリラックスした雰囲気での質疑応答を誘発していたように感じる。

オンラインならではの振り返りの機会もつくることにした。授業のTAをしてくれた博士課程の石原航君は類い稀な能力をもったアーティストで、ネットコミュニケーションにおけるフェイクやなりすましを創造的に解釈する方法を研究しているのだが、彼がつくってくれたAlike Wikiというシステムを使って授業の振り返りをすることにした。

図2:Alike Wikiによる授業の振り返り(教員になりすまして履修者が発言を書き込む)

脇田先生0812図1.png

このシステムには振り返りのアバターが用意されている。授業の担当教員、ゲスト教員、内容に関係する研究者やキャラクターなどが並ぶ。履修者は授業内容を踏まえながら、このアバターになりすまし、その人が「言いそうな発言」を書き込む。書き込みをみた他の履修者は、その人っぽい発言だと感じた場合には「Alike」ボタン、ぽくないと感じたたら「Unlike」ボタンを押す。一見、遊びに見えてしまうかもしれないが、ただノートを取り、内容を記憶して鸚鵡返しする(これを、シッタシズム、鸚鵡返し主義という)スタイルに疑問を感じている私のささやかな抵抗だ。つまりは表層的知識を記憶する機械的な運動ではなく、その心や思想を読み取ろうとする態度が履修者には求められるのだ。

思えば、教室というのは教員にとって教えやすい環境であり、学生にとっては決してベストな環境ではなかったのだ。
一人の教員が一度にできるだけ多くの学生を監視できる環境、効率的に知識を伝播できる環境、そのような設計思想で教室は作られてきた。パノプティコンに代表されるように、病院、刑務所、学校は同じ設計思想で作られているという。オンライン授業で教員が重視すべきは、教室での授業体験をそのままヴァーチャルに移行することではなく、オンラインならではの新しいメディア環境をトータルにコーディネートすることだろう。そして、教員のためではなく、学生のためのベストな環境を模索し続けることだろう。

SFCでは、今後の感染状況をみつつ、オンキャンパスでの授業も可能な範囲で実施していく予定だが、新型コロナの収束が見えない中、オンラインの必要性はしばらくなくならないだろう。そのような中、教員は学生のためにベストな学習環境を常に再構築し続けていく必要がある。教員の役割は知識の伝播から学習環境の構築へと変わっていくのだろうか。

実験的に行われた授業に対して、多くの履修者は歓迎してくれたようだ。「わこつ」というネットスラングすら知らなかった私に、様々な用語を教えてくれたし、ライブ配信の要望やコツなどを多くインプットしてくれた。良い雰囲気の授業を一緒に作ってくれた学生に心から感謝している。

なお、本講義の必須の参考文献は『風の谷のナウシカ(漫画版)』と『AKIRA』であった。

* SFCの様々なオンライン授業がどのような実施されたのか、近日にSFCウェブから特集記事を予定している。


脇田玲 環境情報学部長/教授 教員プロフィール