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おかしら日記
2020.07.07

サイバー空間を通して「リアル」と向かい合う|総合政策学部長補佐/教授 藁谷 郁美

オンライン授業で学生みんなの元気な顔を目にし、声を聞き、嬉しくなりそしてホッとする。すっかり日常生活の一部となった。でも1年生の履修者が多い授業が終わった後、思った。今いた学生達は、キャンパスで互いに顔を合わせたことがない。昼休みに誰かと「カモる」ことも、仲間と課題のために「残留」した経験もない。

熱気溢れる教室、休憩時間になると一斉に学生や教員が行き交うλ(ラムダ)館からκ(カッパ)館までのペデストリアンデッキ通路、イベントで座席が埋め尽くされるθ(シータ)館やΩ(オメガ)館。昨年までは当たり前の光景だった。SFCは今年、開設から30年目を迎えた。この30年の間、学生と教職員は同じ実空間で過ごした記憶を共有する。かつてこのキャンパスで過ごした卒業生たちも、その思いは同じだろう。この共有する記憶は今後大きく変化していくのだろうか。

今年はオンラインで七夕祭が実施され、バーチャルキャンパスには人が溢れた。今、サイバー空間に自分のアバターを託し、自由にキャンパスを闊歩する。インテンシブドイツ語の授業では海外から履修者が出席し、研究会には時差 8時間のドイツに住む大学院生が眠い目をこすって参加する。すべては、情報ネットワークがつくりだすサイバー空間のなかで起きる。SFCのキャンパスはサイバー空間のなかで確かに存在し、機能する。しかし実際のキャンパスに人影はなく、教室も研究室も閉ざされたままだ。

SFCは開設当初から「デジタルキャンパス」「24時間キャンパス」と呼ばれ、サイバー空間を研究・教育環境としてデザインし、実践してきた。サイバー空間はいつも我々のキャンパスにとって重要な活動空間だった。キャンパス内のリアルな生活と、そこに付随するサイバー空間が有機的に連動する教育と研究の場。それがSFCであった。サイバー空間が重要な位置づけを持つことは、以前から変わらない。ただ、構造全体が変化しているように思う。

学習環境デザインのフレームワークを考えるとき、教室内の学びを「フォーマルラーニング」、そして教室外の学びを「インフォーマルラーニング」と捉え、両者の多様な連動を実空間とサイバー空間の結びつきとして提示してきた。いま、その教室内の学びはサイバー空間にすっぽりと飲み込まれ、フォーマルラーニングとインフォーマルラーニングのレイヤーがドラスティックに変容しつつある。今後、この構造変化のなかで「共有する体験」がどのように創出されるのか、これまで世代を超えて学生たちが共有してきた「SFC体験」を、これからの学生が継承するとはどういうことか。そのなかでSFCの理念、慶應義塾の理念がどう継承されていくのか。今年立ち上げた「キャリア形成委員会」の根本にある考え方は、SFCで育まれたかつての学生たちと在学生、在職中の教職員とつながる空間の創造である。

さて、この後取り戻す「リアルな」生活とは何だろう?サイバー空間にある「リアル」と向かい合いながら考える。−−− いま、私の足元で鼻先から尻尾の先まで全身で「かまって!」アピールを発信する相棒マリーに触れて、実空間のリアリティに引き戻される。

藁谷 郁美 総合政策学部長補佐/教授 教員プロフィール