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おかしら日記
2020.06.23

6月の信濃町|健康マネジメント研究科委員長 武林 亨

世界では、15万人を超える新規感染者が報告されるなど、依然、世界的流行の状態が続くCOVID-19。その中で、これを克服すべく医学部・病院を挙げて取り組んでいるのが、『慶應ドンネルプロジェクト』だ。

ドンネルはドイツ語のDonner(雷)。初代医学部長であった北里柴三郎は、常に厳しい科学的姿勢を貫き、弟子たちが畏敬の念を込めてドンネル先生と呼んでいたことに由来する。その北里は、破傷風やジフテリアをはじめとする多くの伝染病の予防や治療で世界的業績を挙げている(第1回ノーベル医学生理学賞は、現在だったら、北里も共同受賞していただろうともされる)が、1894年(明治27年)、香港で歴史上3回目のパンデミックが発生していたペストの原因菌を発見したのもまた北里だった(仏パスツール研究所のエルサンと同時)。日本政府から派遣された北里は、きわめて劣悪だった解剖室の環境にも関わらず原因菌発見を短期間にやり遂げたが、なにより、同行していた日本からの派遣団がペストに感染するような状況でも現地に残って予防策の研究を続け、その後の日本での大流行を防ぐことに貢献した。このように、単に病因を明らかにするだけでなく、常に社会全体の予防まで視野に入れて活動を続けたのが北里であった。

このことに倣って、天谷医学部長が名付け親となって開始されたのが、この慶應ドンネルプロジェクトだ。大学病院でおこった感染のアウトブレイクを解明する研究、血清抗体の中でもウイルスを抑えることのできる中和抗体に着目した研究、腸内細菌に関する研究から、COVID-19回復期血漿を用いた治療法の開発や各種薬剤の臨床試験まで、信濃町キャンパスの研究者や医師たちが総力を挙げて取り組むプロジェクトは、北里が初代医学部長として理念に掲げた『基礎医学・臨床医学に集うものが一家族のごとく』協力をする基礎臨床一体型研究そのものだ。成果が早く社会に届くのを待ちたい。

武林 亨 健康マネジメント研究科委員長/教授 教員プロフィール