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おかしら日記
2020.02.25

人工物を設計するキャンパス|常任理事/総合政策学部教授 國領 二郎

世界には人間が設計できるものと、できないものとがある。機械や法律は人間が意図をもって設計できるもの(人工物)だが、その結果としてどんな社会が生まれるかは、やってみないと分からないことが多い。インターネットが世の中をどんなふうに変えるか、完全に正確な予想ができた人はいないと思う。思惑どおりになっていたなら、今頃、ネット社会は国境を超えて人々が理解しあえる理想郷になっていたはずだ。現実は時に他国に対する偏見をあおるために使われて、強力な道具である分だけ深刻な分断を生み出したりもしている。今ならAIが世界にどんな帰結をもたらすか、100%わかると言う人がいたら、かえって疑わしい。つまり社会は設計できない。

こんなことを書くのは、SFCが文理を超えて全体として「設計(デザイン)」を軸につながっているキャンパスだと考えているからだ。ここでのデザインはもちろん外見という意味ではなくて、人間が人工物を作ることによって、社会をよりよいものにするために働きかけを行う行為のことと考えたい。

意図どおりに社会を設計するのが難しいのは、社会が多くの要素が複雑に絡まり合って出来上がっている複雑系だからだ。いろいろな要因が重なりあっているうちに予想もつかなかった結果が飛び出してしまう。いわゆる創発現象というやつだ。創発してしまう社会は設計不可能だということになる。

このように考えていくと、必要なのは、世界の中で設計可能なものは全体の中のごく一部分だということを認識する謙虚さと、自分の作り出したものが生み出した帰結について注意を払い、フィードバックを受けながら修正をかけていく責任感なのだろうと思う。テクノロジーの可能性が高まるほど、それが社会に何をもたらしていて、どんな手直しを必要としているかを常に問い続ける作業を続けなければならない。責任を果たすためには、自分の専門を超えて社会システム全体を見る基礎的な素養と方法論を身に着ける必要があるだろう。そのニーズに応え続けるキャンパスでありたい。

國領 二郎 慶應義塾常任理事 / 総合政策学部教授 教員プロフィール