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おかしら日記
2019.12.03

人工知能とヘヴィー・メタル|環境情報学部長 脇田 玲

人工知能 (AI, Artificial Intelligence) を使って子どもの才能を診断するシステムが生まれている。身体測定の結果から、その子に向いているスポーツを提案するそうだ。この手のシステムは様々な分野で開発されていくのだろうか。向いている職業、住むべき土地、理想の結婚相手、、、人生の様々な選択がアルゴリズムに置き換わっていく未来。

話は変わるが、僕はヘヴィー・メタル (Heavy Metal) が大好きだ。Baby Metalの世界的な人気から、この素晴らしい音楽に目覚める若者も増えている(?)らしい。このジャンルの元祖といえる存在が、イギリスのバーミンガム出身のバンド ブラックサバス (Black Sabbath、日本語で「黒い安息日」という意味) だ。ギターのトミー・アイオミ (Tonny Iommi) は、フレットに十字架が埋め込まれた黒いGibson SGを使って、重たい悪魔的になリフを奏でる。私のサバスへの愛情を差し引いたとしても、ヘヴィー・メタルというジャンルの基礎がアイオミの重たいリフによって構築されたといっても言い過ぎではないだろう。

アイオミのリフの特徴はパワーコード(特にトライトーン)を連発するところにある。このコードはとてもダークで不吉な雰囲気のする音で、キリスト教文化圏の音楽では、長いこと禁忌とされてきた。しかし、アイオミはパワーコードを連発することで、ある種の音楽的美的感覚が誘発されることを発見した。サバスの音楽は、どこまでもダークで、反権力的で、それでいて、心地よい。「黒い安息日」というバンド名からは、キリスト教文化圏の中であえて異端の存在として生き、新世界を切り開いていくというスピリットが感じられる。SFCに似ているといったら、いい過ぎだろうか。

ところで、アイオミの中指と薬指の先端は欠損している。若い頃の工場労働で不運な事故にあったのだ。ギタリストとしては致命的な怪我だ。しかし、彼は指先に自作の樹脂カバーを被せて、この逆境を乗り越えた。でも、指先に力を入れるのは困難だし、超絶技巧の早弾きをするのは大きな困難がある。そこで、彼はギターの弦をバンジョーの細く柔らかいものに変え、さらに弱い力でも弦を押さえられるように音を下げたチューニングをするようになる。これがヘヴィーな音をつくるきっかけになった。また、指先の動きよりも、手のひら全体の動きで対応したフレージングを作っていく中で、パワーコードを多用するスタイルが作られていったのだろう。つまり、ヘヴィー・メタルの様式とは、アイオミが抱える身体的困難を乗り越える工夫の中から生まれてきたものなのだ。

もし当時にAIがあったならば、アイオミ少年にギタリストという職業を薦めただろうか。この時期になると、学生に将来を進路を相談されることが多い。そんな中で、たまたまAIの産業利用のニュースを耳にして、アイオミのことを思い出した。

Tony Iommi
https://vimeo.com/120351437

Tony Iommi from Paul Blow on Vimeo.

脇田玲 環境情報学部長/教授 教員プロフィール