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おかしら日記
2019.10.07

何もない就任日|総合政策学部長  土屋大洋

この「おかしら日記」が始まったのは2004年4月1日。私が教員としてSFCに着任した日である。

私は日吉・三田キャンパスを経て、SFCの政策・メディア研究科後期博士課程に進学した。博士号を授与された後、他大学の研究所で5年間を過ごした。研究は好きだったが、教員になるつもりはなかった。しかし、ひょんなことから有期の教員として戻ってきたのが2004年4月1日だった。そのときの総合政策学部長は小島朋之先生だった。最初のおかしら日記の著者である。この日に加藤文俊さんが大変な目に遭っていたことは、先週まで知らなかった。

小島先生の後に総合政策学部長になった阿川尚之先生は、「はしかのため全塾1週間休講の措置が取られた最後の日で、SFCには学生の姿がありません。新学部長の就任を示唆するような出来事は何もないのです」とおかしら日記に書いている。この原稿を書いている2019年10月1日、この日が私にとって学部長としての最初の日だが、やはり新学部長の就任を示唆するような出来事は何もない。キャンパスに学生はいる。しかし、辞令はないし、就任式があるわけでもない。この件に関してメールも電話も来ない。学部長室に来いと誰もいわないので、この原稿は15年前から使っている研究室で書いている。まもなく正午だが、授業時間中なのでキャンパスは静かだ。秋の虫の鳴き声が窓から聞こえる。

とはいえ、就任に先立って、9月25日の総合政策学部・環境情報学部・大学院政策・メディア研究科の合同教員会議で挨拶をする機会があった。概略、以下のように話した。記録として載せておきたい。

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まずは、まもなく退任される河添健総合政策学部長、濱田庸子環境情報学部長、村井純大学院政策・メディア研究科委員長にお礼を申し上げたいと思います。どうもありがとうございました。濱田先生には引き続き合同運営委員の一角を占めていただきますが、河添先生と村井先生にも引き続きアドバイスをいただきたいと思います。よろしくお願いします。

学部長選挙から3カ月近くが経ちました。ずいぶん時間が経った気がします。
私にとっての最大の変化は、顔が売れたせいで、あまりご縁が無かった環境情報学部の先生方が突然挨拶してくださるようになったことです。正直、この人誰だっけと思うことがまだあります。まだ環境情報学部の先生方は覚え切れていません。とにかく、ここ数年でたくさんの新しい方がいらっしゃったのだと理解しつつあります。

三役が全部入れ替わったのは湘南藤沢キャンパス(SFC)史上初めてのことだと聞きました。経験のない3人が手探りで準備をする3カ月でした。何でこうなっているのと思うことが多々あり、それらを理解するだけで時間がかかりました。そして、3人の間でもなかなか合意できないことが少なからずありました。SFCの最大の強みであり弱みでもあるのは、このトロイカ体制です。独裁政治が不可能である一方で、3人が合意できないと何も進みません。
残念ながら、私たち3人は、今のところは、仲が良いとは言えません。何も言わないでも相手の考えていることが分かるとはとうてい言えません。そうなることが良いとも思いませんし、それぞれ背負っているものや見方が違っています。3人で話し合った結果だからこそ、1人で決めるよりも良くなっている、そうなれば良いと思います。

総合政策学部の皆さん、改めて、選んでくださってありがとうございます。私に投票してくださらなかった方々も、最終的には結果を受け入れてくださったと理解しています。したがって、できるだけ皆さんの利益を追求できるように努力したいと思っています。
「SFCでは何でもできる。好きなことをやれば良い」と良く言われます。これをなんとかしたいと思っています。それを聞くと、SFCは良いところじゃないかと思うかもしれませんし、私たちはそれを売りにしてきました。しかし、本当にそれで良いのでしょうか。
これは学生に教えてもらったことなのですが、SFCには四つのタイプの人間がいて良い。つまり、総合政策学部総合政策学科、総合政策学部環境情報学科、環境情報学部総合政策学科、環境情報学部環境情報学科。総合政策をP、環境情報をEとして、これらをPP、PE、EP、EE型と呼びたいと思います。私たちはこれまで、何でもできると言い続けることで、PE型とEP型の融合系の学生を優遇してきました。しかし、私はPP型の学生をかわいがっていきたい。逆にEE型の学生は新しい環境情報学部長の脇田玲さんにかわいがってもらいたい。
過去30年近く、我々は、融合と言ってきたわけです。学際的であることが私たちの強みでした。しかし、学際的であるためには、それぞれがそれぞれの分野で実力を付けることも必要です。
お気づきかどうか分かりませんが、現在の総合政策学部は、かなりパワフルです。他大学の研究仲間たちと会うと、慶應はいつの間にそんなメンツを集めたんだ、何をやろうとしているのかと聞かれます。このアドバンテージを活かして前に進みたいと思っています。

どこまでできるか分かりませんが、国際政治でも、国内政治でも、地方政治でも、企業の経営でも、非営利組織の経営でも、政策や経営のことを学びたいなら、SFCの総合政策学部だよねというブランドを定着させるために努力していきたいと思っています。
とはいえ、2年間でできることはたかがしれているだろうとも思うようになりました。まだ着任していないとはいえ、この3カ月、補佐の皆さんや事務職員の皆さんの力を借りていろいろなことに気を配ってきました。それでも何かを大きく動かすのは大変です。
結局のところ、小さな決定の積み重ねに注意を払っていくことが重要だというのがこの3カ月の教訓です。一つ一つ、小さな決定の積み重ねが未来を少しずつ変えていきます。それを忘れないでいろいろな判断していきたいと思います。

繰り返しですが、一人ではできません。まずはこの3人、そして皆さんのお力を借りて前に進みたいと思います。よろしくお願いします。


土屋大洋 総合政策学部長/教授 教員プロフィール