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おかしら日記
2015.10.19

不思議な力|河添 健(総合政策学部長)

井上輝夫先生がお亡くなりになりました(2015年8月25日)。先生はSFCの新設に参画され、草創期の運営にご尽力されました。フランス語を担当され、仏文学者であり詩人でもありました。私にとってはテニス仲間であり、タイトな短パンをはき、テニスコートを所狭しと駈けまわる先生の姿が懐かしいです。ナイス・ショットもミス・ショットもいつも笑顔でした。
今秋、慶應義塾大学出版会から井筒俊彦著『God and Man in the Koran』が出版されます。何か不思議な力を感じたので、その経緯を少しばかり紹介します。きっかけは井上先生が2013年7月にされたSFCでの講演会です。そのタイトルは『井筒俊彦「意識と本質」から私的言語についてーコミュニケーションとコミュニオン』でした。私は数学者なのでこの手の講演はだいたい遠慮するのですが、学部長になった直後でもあり、是非とも先生にご挨拶をと思い、ラムダ棟を訪ね、聴講することにしました。「井筒俊彦」の名前ぐらいは知っていましたが、イスラーム思想から東洋思想に至るスケールの大きさに驚嘆しました。また8月に都内でオリバーストーン氏の講演会があり、その会場で井上先生にばったりお会いしました。安曇野から検査のために上京しているとのことで、病院を抜け出して来られたようで、いかにも先生らしい。講演後に信濃町の喫茶店で再び井筒先生について、いろいろとお話を伺いました。この2013年の夏、私の「井筒俊彦」についての情報量は爆発的に増大しました。2014年の冬にある篤志家にお会いしたところ、スイスのアスコナにお住まいでした。アスコナは井筒先生が世界の宗教学者や哲学者に禅や東洋思想などの講演を毎年行った所です(エラノスの円卓会議)。その方も井筒先生の著作に深く感銘を受けており、瞬く間に意気投合。「慶應の学生、とくにSFC生には井筒先生の考えを知ってもらおう」となりました。しばらくして慶應義塾大学出版会の坂上弘会長にお会いすると、慶應義塾創立150年を記念する出版事業の一つである井筒俊彦英文著作集の出版が、募金が芳しくなく、計画通りに進んでいないことを聞かされます。何と私のまわりに井筒先生が三度も登場したのです。これはもう何かの縁です。坂上会長に篤志家の方を紹介し、その方のお陰で今回の出版に至りました。
SFCには『God and Man in the Koran』を100冊ぐらい寄贈していただけると思います。私の研究会でも来期はこの本を読もうかと思っています。本を開くと多くの概念図があることに驚きます。多分、井筒先生の思想の根底には数学的な構造がきちんと構築されていたのではないでしょうか?そのあたりを研究会で調べたいと思っています。
寄贈される最初の1冊は、是非とも井上先生にお渡ししたかったです。
先生のご冥福を心よりお祈りします。