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おかしら日記
2006.10.27

映画の面白さ|小島朋之(総合政策学部長)

映画はよく観る。しかもDVDではなく、映画館で観るようにしている。大きな画面で、画面の中に入り込んだ気分を味わえるからだ。最近では『花田少年史』、『ユナイテッド93』、『フラガール』などを観にいった。どれも面白かったが、私にとって秀抜は『花田少年史』だった。私自身の少年時代を追体験しながら、ある意味で「そうでありたかった」理想の少年時代を投影できたからである。

映画はそういうものかもしれない。中国はインドと並んで、映画の観客動員数が最大の国の一つである。いまでは信じられないであろうが、1980年代はじめの中国で最も人気があった俳優は女性が山口百恵、男性は高倉健であった。山口百恵は、テレビの人気ドラマ『赤い迷路』を筆頭とした『赤いシリーズ』が中国でも放送され、国民的アイドルとなった。高倉健は『君よ、憤怒の川を渡れ』である。この映画は1976年に制作されたが、1970年代末に中国で外国映画として久しぶりに上映され、高倉健は一気に中国で中国最高の人気男優となった。ベルリンやベネチア映画祭などで受賞した映画監督の張芸謀が、高倉健を主演に『単騎、千里を走る』を撮ったのは、まさに『君よ、憤怒の川を渡れ』での憧れがあったからであろう。日本映画の中で「そうでありたかった」、「そうでありたい」との願いが投影されたのであろう。時代は「悲惨な内乱」の文化大革命を終え、経済発展を最優先する方向に転じ、そのために「日本に学べ」がしきりに叫ばれていたのである。

いま中国はある程度まで経済発展をとげ、映画も自らの時代を語りはじめている。じっくりと、そして暖かく生活を描く映画が面白い。そうした映画で私が好きなのは、『山の郵便配達夫』である。経済発展から取り残された山間に定年間際の郵便配達夫が跡継ぎになるかどうか悩む次男坊を連れて旅する物語である。山間に暮らす人々と父との間の郵便物の配達と受け取りの淡々たる状況を、息子の揺れる目で描き、跡継ぎを決意するだろうことを示唆して映画は終わる。父が慣れ親しんだ「あの山 あの人 あの犬」(原題『那山 那人 那狗』の訳)を、変化はあっても息子も慣れ親しめればよいのにという願望が伝わって繰るのである。

(掲載日:2006/10/27)

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