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おかしら日記
2010.09.28

共通した課題:学生のモビリティの向上|徳田英幸(政策・メディア研究科委員長)

9月に入り、海外出張が重なった。最初は、UK-Japanの二国間で行われた「計算機科学におけるヒューマンファクタ」に関する研究ワークショップに招聘された。メインテーマに加えて、どのようにして英国と日本の若手研究者の交流を活性化できるかという話題で、「どのようなメカニズムが必要か」あるいは、「どのような領域が可能か」などについて議論をした。国内では、長期あるいは短期間海外に滞在し、研究をする若手研究者の数がここ数年単調減少している負の傾向が続いている。それをなんとか食い止めようと(独)日本学術振興会(JSPS)の「組織的な若手研究者等海外派遣プログラム」事業がはじまった矢先に、事業仕分けでカットとなってしまったのが我が国の現状である。一方、隣の韓国では、海外の受入学科や担当教授の承諾レターがあれば、国が財政的な支援を大学院生に対して助成してくれる制度がある。現に、私の知人の先生のところのPh.D.の学生は、ほとんどが学位を取るまえに、海外でのトレーニングを経験している。SFCの学生のさらなるモビリティの向上に関しても、海外フィールドワークやインターンシップに加えて、これまでの以上の努力が必要である。

2つ目の会議は、EuroCall2010 で、外国語教育を行っている大学関係者、EUの外国語教育政策担当者、外国語教材関連を開発・販売している企業関連の人たちが参加していた。私は、ドイツ語の藁谷先生やデータベース技術を開発している清木先生のグループとともに進めている新しいユビキタス体験教育環境の一部として開発した外国語学習環境の研究成果発表に参加した。これは、文部科学省の「質の高い大学教育推進プログラム」の一貫として行われているタスクで、従来の教室内で行われているフォーマルな学習に加えて、iPhone などのスマートフォンを使い、いつでも、どこでも実践できる体験型のインフォーマンルな学習環境が提供できる点がユニークである。外国語教育の研究者の方々とテクニカルセッションだけでなく、ポスターセッションやレセプションでお話できる機会があり、外国語政策に関するEUのスタンスやテクノジーの活用に対する視点の違いは、大変興味深いものであった。

3つ目は、日本への帰路、HelsinkiからJyvaskyla大学 へ清木先生のグループと向かい、あちらの学長やFaculty of Information Technologyの先生方とSFCとの間で締結されている学生や教員の交流プログラムや研究交流に関する議論をした。あちらからのMOTEBU (Mobile Technology and Business)プログラム の紹介もあったので、SFCのGIGAプログラム の紹介をさせて頂いた。Jyvaskyla大学の学長は、SFCの先進性やユニークさに大変興味を持たれており、SFCとの交流をいろいろな面で深めていきたいと繰り返しておられた。実は、フィンランドでは、大学改革がすごいスピードで行われており、現在の政府が、従来の大学システムから、ボローニヤプロセスにあわせて、3年制のBachelor degreeと2年制のMaster degreeといったシステムに統一している最中とのこと。もともと、ボローニヤプロセスは、ヨーロッパ内での学位の統一や教育の質的保証を担保していくための合意だが、学生のモビリティを高めていくことにも大きく貢献している。フィンランドでは、工学系の場合は、5.5年かけて勉強していた修士相当の学位を2つのフェーズに分けた形になる。Jyvaskyla大学では、多くの工学系の学生は、働きながら学んでいたそうだが、ある意味、働きながら学ぶのではなく、full timeでしっかりと学んで欲しいという願いも入っているとのこと。ヨーロッパの伝統でもあり、大学の学費は無料で、多くの学生たちは仕事を持ちつつ大学院に通っている。両立は難しい場合もあり、ドロップアウトしてしまう学生もいる一方、何年も大学院に残り3つも4つもdegreeを獲得し、なかなか社会に出ていかない強者もいるそうだ。

今回の3つの会議に共通している課題は、教育研究の質的向上をどのように進めていくかとともに、いかに学生たちのモビリティを向上していくかといった課題である。SFCでは、学部と大学院を連結させた5年制モデルのカリキュラムの議論もすすんできているが、学生のモビリティの向上を促進するいろいろな仕掛けを作っていきたいと痛感した次第である。

(掲載日:2010/09/28)