MENU
SFCスピリッツ
2015.03.09

走り出した「思考」の10年

 

大山 エンリコイサム
美術家
2007年 環境情報学部卒業
 
 2003年に慶応志木高からSFCに入学しました。在学中、当時は未成年も出入りできたクラブ・イベントを中心にライヴ・ペインティングの活動を展開。グラフィティ文化に影響を受けていましたが、アンダーグラウンドな世界にどうしても深く入りこめず、葛藤を感じながら自分なりの表現を模索しました。深夜に活動し、寝ないで大学に行く日々でした。
 
 3年になり、友人の勧めで渡辺靖先生のゼミに所属しました。自分にとって、研究テーマとしてリアリティのあることはひとつ。グラフィティ文化をアートの文脈で捉えることを考え始めました。生半可な知識で持論を展開する私を、先生は、型にはめようとせず、自由にやらせながら丁寧に耳を傾けてくれたと記憶します。結果、ともかく自分の「思考」だけは止めずに走らせ続けることができた。生意気にも一度、考えをまとめて出版したいと先生に相談しました。「学生の文章では厳しい。大山君はいずれ日本でグラフィティ文化の第一人者になるから。」と諭されたことを、恥ずかしく思い出します。
 

 

 2007年に東京芸大の大学院に進学し、現代美術について学びました。2011年にはアジアン・カルチュラル・カウンシルの助成でニューヨークに滞在。2012年からは拠点を完全にニューヨークに移し、グラフィティ文化やストリート・アートと現代美術のボーダーで制作と執筆を続けています。そして10年が経ち、SFCで走り出した思考は一冊の本として世に問われることになりました。2015年1月末、初単著『アゲインスト・リテラシー──グラフィティ文化論』がLIXIL出版より刊行されています。
 

 

 

グラフィティ文化やストリート・アートは、現代の文化状況を考察するうえで示唆に富んでいます。現代美術とサブカルチャーの関係、グローバル化とローカライゼーション、表現の自由とリスク、作家性と匿名性、市場原理とオルタナティブ性、文脈やリテラシーの問題などは、本書で触れている問題のごく一部です。日本ではまだアートとして認知の低いグラフィティ文化ですが、少しでも多くの人にとって、本書が新しい気づきをもたらすことを願っています。

 

FFIGURATI #51 (Aeromural)

 

 
公式ウェブサイト http://www.enricoletter.net